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Q 陣痛促進剤・アトニン—O®(オキシトシン)が必要だといわれたら?

2021年10月07日 | 判例・Q&A

Q&A

オキシトシン製剤のアトニン—O®は、子宮の収縮を起こすための薬剤です。そのため、思ったように陣痛が起こらない場合や、陣痛は始まったが弱い場合(微弱陣痛)、様々な理由で陣痛が始まっていない時に人工的に陣痛を起こす必要がある場合などに、点滴することで陣痛を起こしたり、強くしたりする目的で使われます。適切に使えばお母さんにも、赤ちゃんにもメリットがあり、出産時に使われる重要な薬剤です。

しかし、人工的に薬剤を投与して子宮の収縮を強くするものなので、陣痛が強くなりすぎることがあります(過強陣痛)。過強陣痛になると、お母さんのおなかの痛みは非常に強くなり、子宮収縮が頻繁に強く起こるためおなかの赤ちゃんも苦しくなる可能性があります。そのため過強陣痛が起こると,赤ちゃんがおなかの中で苦しくなること(胎児仮死),子宮が破裂すること,赤ちゃんの通り道である膣の入り口(頸管)が大きく避けること(頸管裂傷),おなかの中の赤ちゃんが浮いている羊水が血液中に流れて詰まらせること(羊水塞栓症)などを起こすことがあります。オキシトシン製剤のアトニン—O®を使うことで過強陣痛になったケースでは、これまで、たくさんの訴訟が起こされて、社会問題にもなってきました。

そのため、オキシトシン製剤のアトニン—O®は、使用する際にどのように使うか、具体的に詳細に決められています。産科診療ガイドラインや指針、アトニン—O®の添付文書でも具体的に詳細にきさいがあります。これらの遵守事項を守らずに使用し、赤ちゃんやお母さんに後遺症や死亡の事故が起こった場合には、産婦人科医師の責任が問われる傾向にあります。このような基準が明確に定められている今日では,遵守事項を守らなかったため悪い結果が発生すれば責任を逃れることはできず、アトニン—O®使用の際には,遵守事項を厳格に守らなければならない、と考えられているのです。

このような基準が明確でなかった昔は、陣痛促進薬の危険性が一般的知見となっていなかったことを理由に医療機関(産婦人科医師)の責任がないとした裁判例もありましたが、今日では,原則として基準に従わなければ責任を問われる傾向になっています。

アトニン―O®(オキシトシン)の使用上の遵守事項としては、以下のようなことが決まっています。このルールに従わずに、赤ちゃんやお母さんに事故が起こった場合には、産婦人科医の責任が問われることになります。

実際に、当方の担当したケースでも、陣痛促進剤の使い方が問題になりました。アトニン―O®(オキシトシン)最初の投与量が多すぎ、分娩監視モニターで赤ちゃんが苦しい(胎児仮死)の状態になったのに、薬の量を減らさずに増量し、お母さんには非常に強い痛みが起こり、赤ちゃんは苦しい状態のままで、生まれてきたときに重症仮死で、脳性麻痺になってしまったケースでした。陣痛促進剤アトニン―O®(オキシトシン)の使用方法が遵守されているかどうか、カルテを検討して問題があることが明らかになったので、医療機関に交渉を申し入れたところ、相手方医療機関も問題点をおおむね認めて、産婦人科医の謝罪の手紙と、産科医療保障制度とは別に約5000万円程度の示談に至ることができました。

アトニン―O®(オキシトシン)の使用上の遵守事項のポイントをまとめました。

  1. むやみに使わず、使うべきかどうかは慎重に判断すべきこと
    「患者および胎児の状態を十分観察して,薬剤の有益性と危険性を考慮したうえで,慎重に適応を判断する。子宮破裂・頸管裂傷は経産婦,帝王切開あるいは子宮切開既往歴のある患者で起こりやすいので,これらの患者に対する適応は特に慎重に判断する。」
  2. 薬剤を使うときには分娩監視装置で赤ちゃんの状態をモニターすることが必要
    「分娩監視装置を用いて,胎児の心音,子宮収縮状態を十分監視する。」
  3. 薬剤は、投与量が調節できるような方法で、点滴投与する
    「原則として点滴静注投与する。筋注・静注は調節性に欠けるので,弛緩性出血に用いる場合以外は避ける。」
  4. 薬の効果は個人差があるので、微量調節ができる点滴用の器具を使って量を調節し、投与開始は1分間に2.0mUより少ない量で始めて、分娩監視モニターをしながら少しずつ増量する
    「本剤に対する子宮筋の感受性は個人差が大きいので,微量点滴注入装置を用い,2.0mU/分以下で投与を開始し,陣痛・胎児心音を監視しながら徐々に増減する。」
  5. 特に点滴開始の時は、陣痛が強すぎること(過強陣痛)が多いので注意する
    「過強陣痛は,点滴開始初期に起こることが多いので,特に注意する。」
  6. 点滴の量を増やす場合には、1分間に1~2mU以内で、まず40分は観察する
    「点滴速度を上げる場合は1~2mU/分の範囲で40分以上経過を観察しつつ徐々に行う。」
  7. 最大量は、1分間に20mUまで
    「点滴速度を20mU/分に上げても有効陣痛が起こらないときは,それ以上上げても効果を期待できないので,増量しない。」
  8. 他の子宮収縮薬と一緒に使わない
    「プロスタグランジン製剤PGF2α,PGE2らなどと同時併用しない。前後して投与する場合は,十分な分娩監視を行い,特に慎重に投与する。」