無痛分娩とは激痛といわれるお産の痛みを、麻酔薬を使って軽減させ、出産をサポートする分娩方法です。お産の痛みは個人差がありますが、骨折の痛みなどよりも痛みは強いといわれます。この大きな痛みをやわらげ、妊婦さんの負担を軽くすることを目的に無痛分娩は行われます。無痛分娩では硬膜外麻酔が一般的に用いられますが、点滴や、ガスが用いられることもあります。
日本以外の先進諸国では、無痛分娩は一般的に行われている方法ですが、日本で無痛分娩を選択する妊婦さんは(2008年アンケート調査)全分娩中2.6%にすぎず日本では普及が進んでいません。一つには産科麻酔に十分な知識のある麻酔医や産科医を常時配置するのが分娩数の少ない施設では難しいという点が挙げられますが、そのほかに、無痛分娩に対する迷信や「陣痛を耐えて子供を産んでこそ本当の母親になれる」といった伝統的意識が根強いことが原因と考えられています。
無痛分娩には、計画分娩(子宮収縮薬を用いて人為的に陣痛を誘発する方法)と自然分娩(自然に陣痛が始まるのを待つ方法)の2種類があります。
計画分娩は入院する当日、内診を行った後、子宮口を広げるための処置(ラミナリアという海草でできている細長い綿棒のようなものや、バルーンを入れたり)を行います。この処置が無痛分娩より辛いというお母さんもいらっしゃいます)その後、点滴で子宮収縮薬を投与します。お産の進行状況や痛みの出現状況に応じて、麻酔薬の投与を開始します。
計画分娩ではあらかじめ麻酔薬を投与するためのカテーテルを留置しておいて、痛みが強くなってきたらすぐに麻酔薬の投与を開始できるようにしておくこともできます。ただし計画無痛分娩を行うには、子宮頸部が十分に柔らかくなっている(頚管熟化)が必要ですので、希望したらいつでも計画分娩ができるというわけではありませし、計画分娩は陣痛が始まらないうちに陣痛促進剤を投与するため、通常の分娩よりは促進剤の投与量は多くなる傾向があります。
自然分娩は陣痛が始まるまでは通常通り生活をして、陣痛が始まったと思ったら病院に行き、お産の進行状況を確認した後、麻酔薬を投与するためのカテーテルを留置して麻酔を開始します。自然に陣痛が始まるのを待つため、陣痛促進剤投与が必要にならないケースも多くあります。ただし、病院に到着してからの麻酔開始となるため、痛みが出てから麻酔薬の投与を開始するまでに時間がかかりますし、お産の進行状況によっては、すぐに分娩になってしまって「麻酔が間に合わない」場合もあります。
計画分娩と自然分娩では最初から陣痛促進剤を使用するかどうかという違いはありますが、痛みが出てからの麻酔薬の使い方に大きな違いはありません。しかし、無痛分娩は計画分娩にせよ自然分娩にせよ、通常のお産に比べると医師・助産師や看護師のマンパワーが多くかかります。そのため人手がある日中に対応ができるよう計画分娩を中心に無痛分娩を実施している医療機関が多いと考えられます。
また無痛分娩はすべての方が受けられるのではなく
- 麻酔薬にアレルギーがある方
- 全身状態の悪い方(出血多量や脱水)
- 血液の凝固、止血に異常のある方(硬膜外腔に出血し、硬膜外血腫を形成しやすい)
- 麻酔を行う局所(背部)に感染や腫瘍のある方
- ある種の心臓疾患、脊髄神経疾患、脊椎疾患のある方
以上の症状がある方は無痛分を受けることができません。また麻酔チューブ挿入時間に余裕がないとき(分娩が切迫しているとき、進行が早すぎるとき)は実施できない時もあります。