無痛分娩とは、激痛といわれるお産の痛みをやわらげながら分娩をする出産方法です。
日本以外の先進諸国では一般的に行われている方法ですが、日本では出産に占める割合は2016年時点で5.3%(日本産婦人科医会)にすぎません。
しかし、それは無痛分娩が危険なためではなく、産科麻酔に十分な知識のある麻酔医や産科医を常時配置するのが分娩数の少ない施設では難しいため実施施設が少ないこと、そのほかに、無痛分娩に対する迷信や「陣痛を耐えて子供を産んでこそ本当の母親になれる」といった伝統的意識が根強いことが原因と考えられています。
もちろん麻酔を伴うため、一定のリスクが生じることも事実ですが、無痛分娩によって、分娩時の痛みが緩和され、出産に対する恐怖心を取り除き、安心して分娩に臨むことができ、精神的・肉体的疲労感が少ないため、出産後の体力の回復も比較的早いと言われています。
ただし、無痛分娩は完全に痛みがないわけではありませんので、完全に「痛みが全くない」状態にはならないことを理解する必要があります。また陣痛の痛みは少なくなりますが、ほとんどの妊婦さんで張りは感じることができますので、それに合わせていきむこともできます。また陣痛計の動きや分娩介助スタッフの指示に合わせていきむことは必要になります。
無痛分娩で用いる硬膜外麻酔は十分に安全な方法であり、重篤な合併症が起こる可能性は低く、赤ちゃんに対して大きな影響が出る可能性もほとんどありません。そのために、ほぼ安全な方法ということができます。
しかし、いくつかのリスクが伴うことも事実で、具体的には、分娩遷延が起こったり、麻酔による下肢のしびれが生じたり、排尿障害が起こること等もあります。これらの障害は麻酔の効果が切れれば自然と軽快しますし、赤ちゃんに後遺症が残るようなこともほぼありませんので、基本的にはこのような症状は一時的なものと考えてよいと考えます。
また麻酔後の頭痛(硬膜穿刺後頭痛)は100人に1程度が発症すると言われています。これは、硬膜外麻酔の際に硬膜を傷つけてしまうことで起こる頭痛を指します。硬膜に穴が開いてしまっているため、そこから脳髄液が硬膜外腔にあふれ出てしまい、頭や首の痛み・悪心などの症状が現れます。このような症状がみられた際には硬膜外血液パッチという処置を施すことがあります。また非常にまれな後遺症としては、硬膜外腔や脊髄クモ膜下腔に血の塊や膿のたまりができ永久的な神経障害が残ってしまう危険性があります。この場合には早急に手術を行い、原因物質を除去します。
無痛分娩を行うと、自閉症児が生まれる可能性が高まるのでは?という疑問も聞かれることがありますが、これに対する科学的な根拠は一切ありませんが、どうしてもそのリスクが気になるようであれば、無痛分娩は選択されない方がよいと思います。また無痛分娩は通常分娩に比べると医療スタッフの手が多く必要ですので、無痛分娩になれたスタッフの多い、設備の整った医療機関を選択する方がリスクの回避に繋がる可能性があります。
無痛分娩での出産トラブルが起こるのは、産婦人科などスタッフによる観察が必要になるにも関わらず十分な観察が出来ていなかったケースが多いです。無痛分娩の経験や設備が整った施設で受ける必要があります。