妊娠後期になりやすい病気のひとつとしてHELLP(ヘルプ)症候群があります。HELLP症候群とは「溶血(Hemolysis)」「肝酵素の上昇(Elevated Liver enzyme)」
「血小板の減少(Low Platelet)の3つ特徴を持つ病気が生じる状態で、その3つの特徴の頭文字からつけられた名前です。
昔に比べると、きちんと妊娠期間の管理がされていれば、HELLP症候群にまで至ることは、まれになってきていますが妊娠管理を怠りHELLP症候群にまで至ってしまうと、お母さんだけでなく赤ちゃんにまで影響がでますので注意しなければならない病気です。妊婦健診の際の血液検査は、このHELLP症候群を起こしていないかどうか確認することも一つの目的になっています。
HELLP症候群を発症したケースのうち、約70%が妊娠中(特に妊娠27週から37週)に発症し、残りの30%は出産を終えた後(特に分娩後48時間以内)に起こります。全妊娠の0.5~0.9%に発症するとされていて、重症妊娠高血圧腎症(妊娠高血圧症候群の重症例)では10~20%に発症します。また二人目以降の経産婦や多胎妊娠、高齢妊娠の人に多いといわれています。
HELLP症候群は、一旦発症すると急激に進行し、DIC(播種性血管内凝固)、急性腎不全、子癇、常位胎盤早期剥離、肺水腫、肝被膜下出血などの重篤な合併症をきたして、お母さんや赤ちゃんが死亡することもあります。
HELLP症候群の詳しい原因は特定されていませんが、妊娠によってお母さんの肝動脈(肝臓の動脈)の痙攣性攣縮や血管内の細胞の障害などとの関連が考えられています。また約90%に妊娠高血圧症候群の合併がみられますので妊娠高血圧症候群との関連をうかがわれています。お母さんの血圧が高い状態が続いている場合(妊娠高血圧症候群)には、HELLP症候群になっていないかどうか、血液検査をして調べる必要があります。
症状としては突然に上腹部痛や胃痛に襲われ、倦怠や疲労を感じたり、吐き気を感じて嘔吐したり、下痢をしたりなどの症状がでたりします。また頭痛や眼華閃発(目のチカチカ)などが起こることもあります。風邪の症状や妊娠後期の不快感と似ていたりするので、初めはそれらの症状であると思ってしまうこともありますが、妊娠しているときは安易に考えず医療機関に相談し、必要な検査を受ける必要があります。
HELLP症候群になってしまった場合、唯一の治療法は妊娠の中断(出産を終えてしまうこと)です。妊娠34週以降で胎児の成長が順調な場合は、赤ちゃんは母体外でも生きることができる状態になっていますので、帝王切開が行われることが多いです。しかし妊娠34週未満でも分娩を終了させること必要ですので、早産になった赤ちゃんが母体外で生きられる、ステロイドを投与し、母体と胎児の状態を慎重にみて、ステロイド投与後48時間以上たってから分娩を行うかどうかを検討する必要があります。ステロイドは、胎児の肺熟成を促す役割があり母体の血小板の減少を一時的に抑えられる効果が見込める可能性もあります。分娩を終えるとHELLP症候群の症状は改善していくことが多いのですが、出産後も一定期間は、お母さんに様々な合併症が起きる可能性がありますので慎重な管理が必要です。またHELLP症候群が、赤ちゃんに直接何らかの影響を及ぼすかどうかについては、明らかになっていませんが、分娩時期によっては赤ちゃんが早産で生まれてくることもありますので、早産児や低出生体重児の場合、新生児呼吸窮迫症候群などの合併症が起こる可能性もありますので赤ちゃんへのケアも大切になります。
このようにHELLP症候群は、高度な医療が必要になるため症状や血液検査の結果によりHELLP症候群が疑われたら、高度医療機関に搬送して治療する必要があります。
HELLP症候群の出産トラブルのケースでは、お母さんの血圧が高い状態であるのに入院管理を行わなかった場合や、吐気・嘔吐が起こったのに血液検査をしなかったために妊娠高血圧症候群が見落とされてしまう場合などがあります。一旦HELLP症候群になれば、第一の治療法は、妊娠終了(分娩)する必要があります。十分な観察をしなかったことで高度医療機関に搬送するタイミングが遅れてしまうと、脳出血を起こしてお母さんに後遺症が残ったり、赤ちゃんが脳性麻痺になってしまったり、母児ともに亡くなってしまうような悲惨なケースもあります。