一般に妊婦さんは安定期に入りつわりが落ち着くと、食欲が増してつい食べ過ぎてしまい、体重が増加してしまう傾向があります。おなかの中にいる赤ちゃんへ十分な栄養を届けるためにも大切な食事ですが、一方で急激な体重増加はお母さん・赤ちゃんの双方への身体機能に影響を及ぼす可能性が高くなります。
2021年3月に日本産婦人科学会から妊娠中における適正体重の新たな目安が発表され、妊娠前のBMIが18.5未満(やせ型)の場合は12~15㎏、18.5以上25.0未満(普通体型)の場合は10~13㎏が体重増加の目安になります。しかし、妊娠前のBMIが25.0以~30.0未満(肥満)の場合7~10㎏、30.0以上の方は上限5㎏までを体重増加の目安とされました。それ以前の適正体重指針では、妊婦さんが体重増加を気にするあまり、赤ちゃんへの充分な栄養を確保することができずに発育に影響がでるほか、自然分娩が難しく帝王切開となる可能性が懸念されていました。また未熟児で出産した赤ちゃんが、成人後に高血圧や糖尿病になりやすいという報告もなされています。
妊娠中に太ってしまうことにより、妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群、膝や腰の痛み、脂肪による産道の圧迫、微弱陣痛により出産が長引くおそれが生じ、また産後に高血圧や腎臓病などの慢性疾患へ移行する可能性など様々な健康リスクがあげられます。
特に妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病は体重の急激な増加により発症することが知られています。特にこの2つの疾患は、一方を発症するともう一方も合併する可能性が高いため注意が必要です。妊婦健診でお母さんの血圧や尿検査を行うのは、妊娠高血圧症候群を発症していないかどうかチェックする意味もあります。妊娠高血圧症候群は胎盤の影響がお母さんの血圧を上昇させるメカニズムが関係しているといわれています。高血圧の症状だけでなく、お母さんにけいれんや脳出血などの障害をもたらすこともあり、赤ちゃんに酸素や栄養を供給することができず死に至る可能性もあります。
妊娠後期は特につわりが落ち着くことから、それまでの反動で食欲が増し体重が増える傾向にあります。妊娠高血圧症候群を発症しやすいのもこの頃です。妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病予備軍と判断される入院が必要になる場合もあります。妊娠中の糖尿病や高血圧は、お母さんだけではなく赤ちゃんにも影響を与えることがあるため慎重に対応する必要があるからです。