産科ショックとは、妊娠中や分娩時に産科の疾患によって起きたショック状態のことです。ショック状態というのは、急性の全身循環障害が起こり、重要臓器の血流が維持できなくなり、組織や臓器が機能低下に陥った状態で、症状としては、蒼白、冷汗、血流低下などがみられます。
妊娠中から分娩をへて産褥期に至るまでに起こる産科ショックの90%以上が異常出血による出血性ショックで残りがその他のショックから起こります。出血性ショックの際には大量出血や産科疾患によりDIC(播種性血管内凝固症候群)を併発することもあり、その結果血管内の血を固める凝固作用と血を溶かす線溶作用のバランスが崩れ、凝固因子、血小板が枯渇して血管内に血栓ができると同時に、出血傾向をきたす場合があります。進行すると出血により凝固因子が消費されてさらにDIC状態は悪化し、またDICにより出血が止まらないという悪循環に陥ります。DIC(播種性血管内凝固症候群)とは様々な基礎疾患に合併して全身で著しい凝固活性化が持続的に生じ、全身の細小血管内に微小血栓が多発すると同時に出血傾向となる重篤な病態です。
産科ショックは治療の開始が送れると不可逆的な状態に陥り、救命が困難になることもある緊急事態であるため、早期治療が大変重要です。出血が続くことや、蒼白、冷汗、血流低下などショックを疑う症状がみられた場合には、速やかに原因の検索と鑑別を行い、治療を開始します。原則として、ショック自体の治療とともに原因疾患に対する治療や抗DIC療法を並行します。原因疾患に対する治療として、原因の多くは出産に伴う出血であるため、外科的止血も中心となります。抗ショック療法は末梢循環不全の改善と組織の酸素化の維持のために行われます。
産科ショックの原因の一つである「産科危機的出血」への対応は、産婦人科医師や助産師にフローチャートとして周知されています。直ちに行うべき処置についても詳しく解説されています。
出産トラブルになる場合には、産科ショックが生じた際の対応の遅れや、処置方法に問題があるケースがあります。出産の際はさまざまな原因で大量出血や産科ショックに陥ることがあります。そのような危機的状況を念頭に置いて、早期に対応できたかどうかが重要なポイントになります。