常位胎盤早期剥離とは赤ちゃんが分娩される前に胎盤が剥がれてしまう状態をいいます。胎盤は子宮の内側にある、赤ちゃんに栄養や酸素を届ける役割を持った部分で、赤ちゃんの発育に必要不可欠なものです。普通は赤ちゃんの分娩後15~30分で子宮の壁から自然に剥がれて外に排出されます。これを後産(あとざん)いい、その言葉からも分かるように、通常は赤ちゃんが娩出されたあとに剥がれ落ちます。
しかし何らかの原因で、妊娠中期以降にお腹の中に赤ちゃんがいる状態で胎盤がはがれはじめてしまうことがあります。発症の確率は妊娠全体の0.5~1.3%と低いのですが、お母さんと赤ちゃんの両方に大きなリスクが生じます。
常位胎盤早期剥離になると子宮壁から大量に出血します。赤ちゃんへの栄養や酸素の供給が止まってしまうため、出産後に脳性麻痺などの後遺症が残りやすくなります。また死産の確率も高く、重症の場合の死亡率は30~50%になると言われています。胎盤が剥がれると胎盤と子宮の間に胎盤後血腫と呼ばれる血の塊ができ、それがさらに周囲の胎盤を剥がすようにしてしまうと、お母さんにも大量出血による出血性ショック(産科ショック)が、引き起こされます。また胎盤が剥がれた部分から、お母さんの血液内に悪影響のある物質が入り込むと、血液が固まりににくい播種性血管内凝固症候群(DIC)の状態になる恐れがあり、最悪の場合、お母さんと赤ちゃんの両方が命を落とすこともあります。
発症の原因は、はっきりとわかっていませんが、常位胎盤早期剥離の約半数は妊娠高血圧症候群が関連すると考えられています。他には絨毛羊膜炎や胎児奇形、子宮筋腫なども要因である考えられています。
常位胎盤早期剥離は、少量の不正出血や下腹部痛の症状などが見られることもありますが、いずれも妊娠後期に比較的多い症状ですし、はっきりとした症状がでませんので、発症初期に自覚症状だけで診断をつけることは困難です。常位胎盤早期剥離が疑われる症状がある場合は、超音波検査(エコー検査)と胎児心拍モニタリングを行って、総合的に判断します。
常位胎盤早期剥離は非常に軽症でない限り、妊娠週数にかかわらず緊急に赤ちゃんを取り出す必要があります。それは胎児が生存していても時間が経過するにしたがって障害が残る可能性が高くなるためで、ほとんどが緊急帝王切開になります。また、お腹の中で赤ちゃんが死亡してしまっている場合も、時間の経過とともに、お母さんの側にDICの発症リスクが高まりますので、早急に経膣分娩か帝王切開を行って、DICの予防や治療を行います。