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判例 陣痛促進剤の慎重投与義務および急速遂娩の実施義務に違反したことにより、新生児に障害が残ったとして1億4201万3613円の損害賠償が認められた事例

2021年10月13日 | 判例・Q&A

判例

①事案の概要

妊婦さんは午前7時頃に陣痛が始まり9時30分頃クリニックに入院しました。分娩が進まず、強い痛みを訴え続けていたため、医師は21時20分頃、硬膜外麻酔(無痛分娩)を開始し、21時30分頃、陣痛促進剤アトニンの投与を始めました。その後、胎児心拍数が低下したので、医師は翌日午前1時50分~4時まで酸素投与をしました。妊婦さんは午前5時10分に排臨し、午前6時30分に発露が認められ、午前8時3分に男児を自然分娩により出産しました。
出産直後、男児のアプガースコアは1点の新生児仮死の状態だったので、医師は気管内挿管による酸素投与などの蘇生措置を行いました。出生5分後6点、8分後8点となったので、医師は男児の状態が安定したと判断し、午前8時30分頃男児を保育器に収容しました。
男児はその後、9時30分頃から四肢を活発に動かし、呻吟が続くようになり、10時には酸素飽和度が93~96%に下がり、午前11時には38.5℃の発熱と、酸素飽和度も92~95%に下がり、11時25分には体温38.8℃となったため、医師は12時に採血を行いました。この後も男児はこの状態が続いていたため、16時頃に総合病院のNICUに搬送されました。
入院1週間後の頭部CT検査で男児は低酸素脳症と診断されました。また、出生から約1年2ケ月後に、脳性麻痺による体幹機能障害1級の身体障害者と認定されました。

②判決

裁判所は、医師が投与した陣痛促進剤アトニンの初期の投与量と増量する時の点滴速度をアトニンの添付文書(使用上の注意や用法・用量、服用した際の効能、副作用などを記載した書面)の注意事項の記載に従わずに投与したこと、出生の約3時間20分前の午前4時46分には男児は低酸素状態になっていたと考えられること、その時点で急速遂娩(帝王切開)を行うべきであったのに実施をしなかったことで男児は新生児仮死で出生したものと認めました。損害額は児に1億3,871万3,613円と両親に165万円ずつが認められました。

③裁判所の判断と問題点

裁判所は2つの点について問題があると認めました。1点目は、アトニンの投与量です。アトニンの添付文書には、できる限り少量から投与を開始し、慎重に増量するように定められています。。また、投与量も具体的に6~12mL/時から開始し、増量については投与開始または増量から30分以上経ってから6~12mL/時増量すると定められています。しかし、クリニックの産婦人科医師は、定められているより多い15mL/時から投与を開始し、さらに30分ごとに15mL/時で増量しました。添付文書にはアトニンを使用するときには、胎児仮死等が起こる可能性があるとも記載されています。裁判所は、医師が行った、アトニンの投与方法が添付文書の使用上の注意事項に違反しており過失があると判断しました。
2点目はクリニック医師が胎児心拍数陣痛図(CTG)の波形の正確な判断ができず、帝王切開すべき時間に実施しなかった点です。胎児心拍数陣痛図(CTG)は、妊婦さんのお腹に装着して、胎児の心拍数と陣痛を記録し胎児の状態を評価するものです。ガイドラインではCTGの波形からレベル1(正常)~レベル5(異常)の5つのレベルに分けられています。レベル3~5を胎児機能不全といい、レベル5は必ず急速遂娩をするべき、レベル4は急速遂娩の準備を行い、場合によっては急速遂娩を選択する、と定められています。
男児は午前8時3分に経膣分娩で出生しました。産婦人科医師は胎児の心拍の経過はほぼレベル2で午前7時23分頃からレベル4~5になったと主張していました。しかし、裁判所は午前1時50分~4時46分まではCTGが残存しないので判断できないが、CTGが残存する出生3時間20分前の午前4時46分にはCTGがレベル4であったので、帝王切開の準備が必要であり、午前5時29分にはレベル5になっていたので緊急帝王切開をすべきであったと判断しました。少なくとも3時間20分の長時間、男児は低酸素状態であり、その結果、新生児仮死で出生したものだと認めました。

④弁護士のコメント

このケースは、無痛分娩と陣痛促進剤アトニンの使い方に問題があったことが認められました。陣痛促進剤アトニンは、人工的に陣痛を起こすための薬剤ですので、投与の両が多すぎると陣痛が強くなりすぎたり、子宮破裂のリスクもあるといわれています。アトニンによる出産トラブルは多く、社会問題になったことから投与の方法は具体的に定められるようになりました。
安全なお産を行うため、アトニンの添付文書(使用上の注意や用法・用量、服用した際の効能、副作用などを記載した書面)には、投与の方法が具体的に細かく定められていますし、産科診療ガイドラインにも添付文書に沿った投与方法を行うべきことが記載されています。産婦人科医は、定められた投与方法を守って投与しなければならないと考えられているのです。
しかし、このケースでは、投与開始の量も、その後の増量の仕方も、定められたものよりも多かったことで、胎児の状態を示す胎児心拍数陣痛図(CTG)の波形から胎児が低酸素状態(お腹の中で苦しい状態)になっていたのに、緊急帝王切開をしなかったとして、産婦人科医の責任を認めました。
このように、陣痛促進剤の投与が問題になるケースでは、適切な投与をしなければならず投与方法を守っていない場合には、産婦人科医の責任が問われることになります。「アトニンの投与をして異常な痛みがあった」場合には、カルテを検討して投与方法に問題がなかったかどうか検討する必要があります。

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