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今でも妊娠出産は命がけ……健やかな未来のために行いたい「妊産婦さんへの提言」

2025.06.10

富永愛法律事務所 医師・弁護士 富永 愛 です。
司法試験に合格し、弁護士事務所での経験を積んだ後、国立大医学部を卒業し医師免許を取得
外科医としての勤務を経て、医療過誤専門の法律事務所を立ち上げました。
実際に産婦人科の医療現場を経験した医師として、法律と医学の両方の視点から産科を中心とした医療問題について発信します。
出産のトラブルでお困りの方は、是非一度お問い合わせください。


自分や身近な誰かが赤ちゃんを授かったとき、思い描く未来像には幸せと明るさが満ちていることでしょう。でも、妊娠・出産にはリスクがつきまとうのも事実です。
本記事では、日本産婦人科医会が出している「母体安全への提言」最新版をひもときつつ、妊婦さんと産後のお母さんがご自身の安全を守るためにはどうしたらいいのかを考えます。

妊娠・出産は無事で当たり前?

妊婦さんにとって、妊娠・出産は、大変でも幸せな体験に違いありません。実際、ほとんどの方は元気な赤ちゃんとともに、新しい暮らしをスタートさせています。
ですが、妊娠・出産は無事で当たり前かというと、残念ながら決してそうではありません。

妊娠中~産後6週までに亡くなった妊婦・産婦さんが10万人あたり何人いるかを示したのが、妊産婦死亡率です。2023年の日本は3.1人。世界的にはきわめて少ない数字ですが、それでもゼロではありませんし、妊産婦死亡率が一ケタ台で上下するようになったのは1990年以降で、さほど昔ではありません。ちなみに半世紀前(1973年)は36.3人。2023年の10倍を超える数字です。
妊産婦死亡率は、出産医療の進歩と連動して減っています。良いことですが、これは妊産婦さんの命が、医療の良し悪しに大きく左右されてしまうという証拠でもあります。

妊娠・出産が命がけであるということは、今も昔も、何も変わっていないのです。

妊産婦死亡数および率(1899~2023年)

国立社会保障・人口問題研究所 人口統計資料集2025より

妊産婦さんはなぜ亡くなってしまうのか? 「母体安全への提言」から

日本産婦人科医会は、2010年から毎年「母体安全への提言」を出し、妊産婦さんの死亡に関するデータをまとめるとともに、不幸な結果を防ぐために医療者がすべきことをメッセージとして発信しています。
その最新版(Vol.14)によると、妊娠や分娩の合併症で亡くなった方(直接産科的死亡)は全体の54%。そして、死亡につながった原因の第一位は、分娩時やそのあとに起こった大量出血(産科危機的出血)です。医療が進歩しても、まだまだすべてを救えるわけではないということが浮き彫りになっています。

なお、産科危機的出血による死亡件数はゆるやかに減っていく傾向にあったのですが、2020年から2022年の間、急にまた増加しました。
この時期はコロナ禍にあたり、感染している妊婦さんが搬送を断られたり、腹痛のある妊婦さんが「コロナの陰性が確認されないと受け入れられない」と診察を断られたりしたことが報じられていました。こうしたニュースは氷山の一角で、コロナ禍では妊婦さんが医療につながれなかったケースはもっとたくさんあったのではと推測されます。

出血はもちろん危険ですが、今回の提言で特に注目されたのが妊産婦さんの自殺と、無痛分娩で使用される麻酔による事故、そしてこれまでみられなかった劇症型A群溶連菌感染症(いわゆる人食いバクテリア)での死亡例です。
自殺はこれまであまり注目されていなかった死亡原因ですが、ここ数年、出血で亡くなった方よりも、自ら命を絶ってしまった妊産婦さんのほうが割合として多くなりました。このため、「不安を持つ妊産婦さんに適切なサポートをすべき」ということが、提言の先頭に掲げられました。
麻酔については、呼吸や体温に影響を及ぼしたり、陣痛以外の危険な痛みをかくしてしまったりする場合があることから、丁寧な管理をすべきだと提言されました。
劇症型A群溶連菌感染症での死亡は、コロナ禍には一例もなかったのに2023年後半から相次いだことから、医療機関側への注意喚起が加えられた形です。

「妊産婦さんへの提言」

医師たちに向けた「母体安全の提言」を簡単にまとめると、次のような内容です。

では、妊産婦さんご自身が、自分の安全を守るために意識すべきことは何でしょう?
以下、「妊産婦さんへの提言」をまとめてみました。

産院選びは慎重に、行く場所もよく選ぶ

妊娠中全期を通じて、何かあったときすぐ医療機関につながれることは、とても重要。そのためにも、産院選びはもちろん、旅行やレジャーで行く場所についても「何かあったときどうするか」を視野に入れて検討してほしいと思います。また、お腹が痛い、出血した、頭痛がひどくなった、そのようなときはすぐに受診しましょう。

無痛分娩を希望するなら、メリット・デメリットをよく考えて

無痛分娩は体力が回復しやすいなどメリットもありますが、麻酔にはそれ自体リスクが伴います。希望する方は、無痛分娩関係の学会や協議会が運営する組織「JALA」のwebサイトで情報を集めるなどして、慎重に病院を選ぶことをおすすめします。

メンタルの不調を無視しない

妊娠中や産後は、ホルモンの乱れも環境の変化も多大です。それによる心身のストレスや不調は、妊娠・出産が引き起こした病気のようなものといえるかもしれません。
もし精神的な浮き沈みを感じたら、「こうなって当たり前」とまずは開き直って受け入れましょう。そのうえで、身近な誰かに話す、医療機関に相談するなど、対処を考えてください。

感染症に十分に注意を

妊産婦さんは感染症が重症化しやすいので、手洗いなど感染予防に心がけましょう。未治療の虫歯も悪化しやすくなります。
発熱や咳など「ただの風邪かな」と思うような症状でも、軽視せず受診することをおすすめします。手足の小さな傷からの感染が劇症型A群溶連菌感染症につながることもあるので、ケガにも気を付けてください。

すべてのお産が幸せであるように

妊娠・出産は嬉しい出来事でなくてはなりません。
つらい結果に至ってしまう例はどうしてもありますが、せめて避けられるはずの状況で亡くなることはゼロになってほしいと願います。

いつかは、誰ひとり亡くなることなく出産を終え、元気に楽しく育児に励める日が実現しますように。

この記事を書いた人(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。

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