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無痛分娩中の発熱と感染|絨毛膜羊膜炎とは

【医療専門】富永愛法律事務所 医師・弁護士 富永 愛 です。
出産のトラブル(赤ちゃんや妊婦さんの重篤な後遺症や死亡など)は当事務所にご相談ください。
実際に産婦人科の医療現場を経験した医師として、「これって本当に正しかったの?」「納得できないけど、どうしたらいいのか分からない」——そんな不安を抱えている方に、医学と法律の両方の視点から、安心できる一歩を踏み出していただけるようお手伝いします。
絨毛膜羊膜炎
無痛分娩の合併症の一つに母体の発熱があります。具体的な原因はわかっていませんが、無痛分娩全体の約15~30%で一時的に38℃以上の発熱があるといわれています。
無痛分娩中に発熱した場合、使用している麻酔薬の副作用なのか、なんらかの感染症なのかを見極める必要があります。
感染症のひとつに「絨(じゅう)毛(もう)膜(まく)羊膜炎(ようまくえん)」があります。
絨毛膜羊膜炎とは、赤ちゃんを包んでいる卵(らん)膜(まく)が細菌感染をして生じる子宮内感染のことをいいます。卵膜は三層になっており、外側から脱落(だつらく)膜(まく)(母体由来)、絨(じゅう)毛(もう)膜(まく)(胎児由来)、羊膜(ようまく)(胎児由来)の順番で赤ちゃんを包んで守っており、分娩の時にこの卵膜が破れることを「破水(はすい)」といいます。
絨毛膜羊膜炎とは、なんらかの原因で膣から子宮に細菌の感染が進んでしまい、赤ちゃんを包んでいる卵膜へ感染が進み、絨毛膜や羊膜にまで感染してしまう病態です。さらに進行すると臍帯炎(さいたいえん)や胎児への感染になります。感染の原因のひとつに破水があります。赤ちゃんを無菌の状態で守ってくれていた卵膜が破れてしまうことで、赤ちゃんは外の世界と繋がってしまう状況になってしまいます。子宮の中が無菌の状態ではなくなるため、外から細菌などが入ってきやすい状態となります。破水してから時間が経過すればするほど、感染が進みやすい状況になってしまいます。

2014年 第4回産科医療補償制度 テーマに沿った分析「子宮内感染について」より抜粋
子宮内に感染が広がると、母体には38度以上の発熱、母体の100回/分以上の頻脈、血液検査で細菌感染しているときなどに上昇する白血球の数値の上昇、などの症状がでてきます。
感染が進行し赤ちゃんにまで感染が進むと、赤ちゃんの心拍が正常では110~160回/分のところ、160回/分以上の頻脈になります。さらに進行すると、モニター上の波形にも赤ちゃんが苦しんでいるサインである、一過性徐脈(赤ちゃんの心拍が一時的に下がってしまう波形)が出現するようになります。
子宮の中の状態は直接見ることができないため、絨毛膜羊膜炎の診断をするには、お母さんと赤ちゃんのサインから推測するしかありません。例えば、目安として下記の絨毛膜羊膜炎の診断基準(Lencki らの診断基準)というものがあります。
- 母体の発熱(38.0℃以上)
母体の発熱は重要なサインなので、以下のうち1つ以上あてはまれば診断できます。- 母体の頻脈(100回/分以上)…助産師が確認します。
- 子宮の圧痛
- おりものや羊水の悪臭…医師や助産師が内診をしたときに気づきます。
- 白血球の増加…血液検査をすればわかります。
- 母体の発熱がない場合でも、お腹に痛みがあるなど、上記の4つをすべて満たすときは診断できます。
しかしこの基準を満す段階になると、すでに絨毛膜羊膜炎は進行しており、母体への治療により改善する可能性は低いといわれています。そのため子宮内感染が起こっている可能性が高い時には赤ちゃんを助けるために早く分娩すべきと考えられています。
また、脱水や背中に入っているカテーテルからの感染が原因での発熱の可能性もあるため、さまざまな原因を疑う必要があります。
このような絨毛膜羊膜炎の症状がないか、風邪の症状がでていないか、血液検査で炎症反応がでていないか、などを確認し感染症や風邪、脱水の発熱ではないことを確認して、そこではじめて無痛分娩の合併症の発熱であると診断できます。
破水している場合、羊水の色にも注意が必要です。通常羊水は無色透明ですが、お腹の中で赤ちゃんに何らかのストレスがかかってしまうことで赤ちゃんが排便してしまいます。そのため無色透明の羊水から緑色に変化します。その何らかのストレスが感染症から起こっている場合があります。トイレに行ったときに付けているナプキンに色が付いた帯下や羊水が付着している場合は助産師に伝えてください。
バイタルサインって何?
バイタルサインとは、異常なく生きているかどうかを体が示してくれるサインのことをいいます。現場では「検温」と言われていることが多く、体温、血圧、脈拍、呼吸などを確認します。分娩中はもちろんですが、産前産後の入院中は毎日確認します。
特に無痛分娩を行っている最中は、麻酔薬の影響で産婦さんが急変しやすい状態です。そのため、分単位でのバイタルサインの観察が大変重要になってきます。
無痛分娩でのバイタルサイン測定の目的
- 体温…感染・脱水のサイン、麻酔薬の副作用が起こっていないか、など
- 血圧…麻酔や出血による循環に変化がないか、急変の早期発見、など
- 脈拍…感染のサイン、麻酔や出血による循環の変化がないか、急変の早期発見、など
- 呼吸…麻酔薬による呼吸抑制の早期発見、など
無痛分娩中は腕には血圧計、手の指先にはSPO2(エスピーオーツー)(酸素飽和度)というモニターを装着します。SPO2とは呼吸や心拍数だけでは分かりにくい血液中の酸素の割合を確認できるモニターです。血液中に酸素が十分にあるかの確認がリアルタイムでわかります。普通の値は90%後半ですか、呼吸が苦しくなると値が下がります。
妊娠中や分娩中の場合、バイタルサインに加えてNST/CTGで赤ちゃんの元気さと子宮の収縮の状態を観察する必要があります。
NST/CTGとは?
NST/CTGは、お母さんのお腹に心音計と陣痛計をベルトで巻いて、赤ちゃんの心音と子宮の収縮をモニタリングする検査です。ふたつとも同じ機械で行い、同じ使用方法で行いますが、装着する時期によって検査の名前が変わります。胎児心拍陣痛図とも呼ばれています。
赤ちゃんの心音と子宮の収縮の状況が機械の画面にリアルタイムで表示されます。専用の用紙が機械に内蔵されており、モニタリングの結果を印刷することができます。お腹の中の赤ちゃんが元気であるかはNST/CTGでしか確認することができません。


NST…Non-Stress Test(ノンストレステスト)
陣痛が来ていない=ノンストレスの状態で赤ちゃんの心拍を確認し、赤ちゃんが元気かどうかを確認する検査です。陣痛が来ていない妊娠中に行われる検査で、妊娠後期の妊婦健診で実施されることが多いです。
CTG…Cardiotocogram(カルジオトコグラム)
赤ちゃんの心拍数(Cardio)と陣痛(Toco)をモニタリングする検査です。陣痛中の赤ちゃんの状態と陣痛の強さや陣痛の間隔を同時に確認します。必ずCTG装着したまま分娩します。
NST/CTGのモニタリングの結果をリアルタイムで正しく判読することが必要であり、判読ができないと赤ちゃんの元気さや子宮の収縮の状況などが正常であるかを判断することはできません。産科で働く医師や助産師・看護師であれば、必ず判読できなければいけません。正確に判読することができなければ産科で働くことはできないくらい基本的な知識です。
しかし、医師たちが正しく判読することができず、赤ちゃんが苦しいサインを出してくれているのにそのまま見過ごされ、その結果赤ちゃんに何らかの障害が残ってしまった、赤ちゃんが亡くなってしまった、という保護者の方からの相談が当事務所には多数寄せられています。医師たちがNST/CTGのモニタリングを正しく判読し、異常がわかった時点ですぐに対応できていれば、赤ちゃんは元気に産まれてくることができました。分娩先のスタッフがNST/CTGを正しく判読するための研修を受けているか、院内で勉強会が行われているか、などを確認してもいいかもしれません。
前置(ぜんち)胎盤(たいばん)、低置(ていち)胎盤(たいばん)
子宮の中にある胎盤が子宮の出口(子宮口)をふさいでいる状態のことを「前置胎盤」といいます。赤ちゃんが出てくる通り道を胎盤が完全または一部ふさいでいる状態であり、子宮の収縮や子宮口が開いてきた場合に子宮口をふさいでいる胎盤から大量に出血する可能性が高いことなどから、分娩の方法は経膣分娩ではなく帝王切開が選択されます。
帝王切開の既往、子宮内の手術の既往(流産・中絶の処置)、高齢、喫煙、双子などの多胎妊娠など方に起こりやすいといわれています。
胎盤が子宮口から2センチ以内にあり、子宮口をふさいではいない状態のことを「低置胎盤」といいます。医師の判断で経膣分娩が可能ですが、場合によっては帝王切開での分娩となります。
前置胎盤では「癒着(ゆちゃく)胎盤(たいばん)」のリスクが高いといわれています。
癒着胎盤とは、胎盤が子宮の壁と強くくっついてしまい、自然に胎盤が剥がれないことをいいます。癒着胎盤も大量出血を伴います。
そのため、前置胎盤は帝王切開のときに大量出血が予測されます。大量出血が起きた場合は輸血が必要になってきます。自分の血を妊娠中に貯血しておいて、大量出血が起こった時に自分の血を使って輸血できるよう準備をしておく必要があります。
前置胎盤の初期の症状に「警告出血」と呼ばれる少量の性器出血がみられます。子宮口が開いている、子宮が収縮することによって出血が起こるので危険なサインです。妊婦健診で胎盤の位置が低めである、前置胎盤の可能性がある、と医師から言われているお母さんで、急に出血がみられた場合は病院やクリニックに連絡しましょう。

鉗子(かんし)分娩(ぶんべん)
鉗子分娩とは、鉗子と呼ばれる金属の器具を膣から子宮の中に挿入し、赤ちゃんの頭を挟んで引き出すことで、赤ちゃんが産まれてくるのをサポートする方法です。用途は吸引分娩と同じで、引っ張る力は吸引分娩より強いといわれていますが、経験が必要であり吸引分娩よりも手技が難しいことなどから、現在はあまり行われなくなっている手技です。吸引分娩同様鉗子分娩も、産婦人科診療ガイドラインに詳しく取り決めが記載されています。

この記事を書いた人(プロフィール)
富永愛法律事務所医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)
弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。
