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解決事例

2026.10.28

【首都圏】臍帯結節による胎児心拍モニター異常を見逃し、帝王切開が遅れて重度脳性麻痺に―医事調停により約2億7000万円(産科医療補償制度給付金を含む)で解決した事例

【医療専門】全国対応。北海道から沖縄まで対応しています。
出産時の医療事故(赤ちゃんや妊婦さんの重い後遺症や死亡など)でお悩みの方はご相談ください。
弁護士選びで大切なのは、確かな解決実績です。

病院から突然届いた「お詫び」の手紙

お子さんが重度の脳性麻痺と診断されてから約4年が経ったある日、突然、ご両親のもとに、産婦人科病院から一通の手紙が届きました。

表題は「お詫び」とあり、

  • お子さんが重度脳性麻痺になったことについて謝罪したい
  • 病院側から裁判所へ民事調停の申立をする予定である
  • 弁護士に依頼しなくても、ご家族自身で調停手続はできる

と書いてありました。突然の手紙に、ご両親は驚きと戸惑いを感じたといいます。

「病院側に問題があったのなら、なぜ調停手続の申立など必要なのだろうか?」

「弁護士なしでも大丈夫と書いてあるけれど、本当だろうか?」

そうした不安を感じて、すぐに当事務所へ、ご連絡をいただきました。

実は、この手紙が届く少し前、ご両親の元には産科医療補償制度の「原因分析報告書」が届いていました。

産科医療補償制度とは、分娩に関連して重度脳性麻痺となったお子さんとご家族を経済的に支援する公的制度です。この制度では必ず、「出産のときに脳性麻痺を発症した理由」について医学的観点からの分析が行われます。

この原因分析の際には、産婦人科医や助産師、小児科医など複数の専門家が、カルテや診療記録を詳しく検討し、「その時点の医療水準に照らして適切な分娩管理が行われていたか」を公平な視点から評価することになっています。

その分析結果である原因分析報告書は、ご家族だけでなく関わった病院にも届けられます。

その原因分析報告書には、出産時の病院の行った分娩管理について、

  • 「一般的ではない」
  • 「基準を満たしていない」

という厳しい評価が示されていました。この評価は、産婦人科医が従うべき基準「産婦人科診療ガイドライン」に沿っていなかったという意味です。

今回のお詫びの手紙は、おそらく、病院にこの報告書が届き、紛争を早期に解決するため、患者さんたちが弁護士に相談したりする前に調停申立をして解決してしまいたいと考えたのではないかと推察できました。

 調停手続は、裁判所で行われる話し合い手続きの一つです。わざわざ病院側からそのような手続きをしようとする目的を考えれば、病院側はご家族と話をすればある程度の(弁護士が着任するよりも低額の)賠償金での早期解決ができるのではないか、と考えていることも予想できました。

病院からの手紙の内容をよく読むと、ミスは認めて謝罪しているものの「院内では、医療ミスや脳性麻痺発症との因果関係を否定する意見もある」と書かれていました。これは、謝罪はしつつ、責任の範囲(賠償の金額)は、病院内でも意見が一致していない、つまり、全面的な賠償が認められるかどうかわからないということをほのめかす内容になっていました。

ご家族としては、手紙を読んだ直後には、謝罪がある以上、きちんとした賠償をしてくれるのではないかと考えておられましたが、全額の賠償を認めている訳ではないという内容になっていることを知り、改めて、どのように話し合いを進めればよいのか不安を感じられていました。ご本人たちだけで手続きを進めて、万が一低額の示談でまとめられてしまうようなことは、お子さんの将来のためにも絶対に避けたいと感じておられました。

妊娠中は大きな異常はなかった

当事務所では、相手方の考えや話し合いの進め方を検討するにあたり、診療記録やカルテなどを入手して医療ミスの具体的な内容を検討しました。

お母様は30代で初めてのご出産(初産婦)でした。妊娠中、一時、切迫早産のため安静を指示された時期はありましたが、その後は順調でした。

妊娠39週5日に陣痛が始まり、夕方には破水したため入院となりました。

ご家族は、まもなく赤ちゃんに会えるという喜びに満ちた一日になるはずでした。しかし、この時、赤ちゃんはお腹の中で徐々に酸素不足に陥り始めていました。

胎児心拍モニター(CTG)には危険なサインが現れていた

分娩中は、おなかの中の赤ちゃんの様子を直接観察することができないため、赤ちゃんを見守るためにお母さんのお腹にセンサーのついたベルトを装着します。これが「胎児心拍モニター(CTG)」です。(妊婦検診の時にはNSTといわれているものです)

妊娠37週頃から行われるノンストレステスト(NST)と同じく、赤ちゃんの心拍数や胎動を観察し、分娩の時には、陣痛が来るタイミングと合わせて赤ちゃんの心拍数がどう変化するのかを連続的に記録します。NSTとCTGは同じ装置を使う検査です。陣痛が来る前はノン・ストレス(陣痛なし)テストといいます。陣痛がはじまると心拍(C:カルディオ)と陣痛(T:トコ)を記録したもの(G:グラム)という名前で呼ばれています。

赤ちゃんに十分な酸素が届かなくなり、苦しくなると、心拍数の変化として現れます。産科医や助産師はこの波形を見ながら「このまま様子を見てよいのか」、「帝王切開を急ぐべきか」を判断しています。赤ちゃんが元気であるサインも現れますが、重要なのは、赤ちゃんからのSOS信号が表れたときです。

本件では、入院した時点から、SOS信号である

  • 基線細変動の減少
  • 遅発一過性徐脈

上段 青線:胎児心拍の波形

下段 緑線:陣痛の波形

が現れていました。

その数時間後にはサイナソイダル・パターンといわれる異常な波形も出現していました。

サイナソイダル・パターン波形

これらは、赤ちゃんが酸素不足になっている可能性を示すといわれている異常な波形でした。

さらに入院の翌朝になると、

  • チェックマーク・パターン
  • 遅発一過性徐脈
  • 基線細変動の増加

チェックマーク・パターン波形

など胎児低酸素を強く疑わせる異常な波形が次々と現れていました。

「チェックマーク・パターン」とは、上に示したように✓(チェックマーク)のような鋭い三角状の波形が繰り返し現れるもので、赤ちゃんのあえぎ呼吸に伴って出現するといわれている波形です。お腹の中で苦しくてあえいでいるような呼吸になっている状態で低酸素状態を示唆する波形の一つとされています。

原因分析報告書でも、チェックマーク・パターンがあることが重視されていました。

(原因分析報告書から抜粋)

このように入院してから、赤ちゃんの「苦しい!」というSOS信号が現れていましたが、帝王切開は行われないままでした。

赤ちゃんの状態を評価する「レベル分類」

産婦人科診療ガイドラインでは、胎児心拍数波形の評価の方法を5段階で表し、危険度によって行うべき処置が異なります。数字が大きくなるほど赤ちゃんの状態が悪いことを意味し、レベル1は正常、レベル5は最も危険な状態で、すぐに出生させなければならない状態です。ガイドラインには、災害の警戒レベルを示す表と同じように、色付けされた表が示されており、5は赤で示される高度異常波形であり、緊急避難すべき=赤ちゃんはすぐに母体外に出さなければならない状況ということです。

(産婦人科診療ガイドライン産科編2017・p284 表2-2から)

(同上・p285 表2-5から)

本件で胎児心拍モニターに現れていたのは、「できるだけ早く赤ちゃんを出生させる必要がある状態(レベル4)」から、「直ちに出生させなければならない状態(レベル5)」へ悪化していく波形でした。

一番の問題は、胎児心拍モニターが中断されたこと

本件では、入院当初から胎児心拍モニターには赤ちゃんが苦しいサイン(レベル3~4)が出ていました。レベル3以上の波形が出現した場合は、ガイドラインでは医師に報告することや、CTG波形の連続監視を続けなければならないことになっています。しかし、担当していた助産師がこのサインを正しく評価できず、見落とし、夜に胎児心拍モニターを一旦終了してしまいました。

翌朝、胎児心拍モニターを再開したときには、レベル4に相当する異常波形が表れていました。それにもかかわらず、助産師はお母さんに「赤ちゃんは元気」と説明し、医師にも報告しないまま自分の判断で、胎児心拍モニターを終了してしまいました。

モニターを中断されてしまったことで、赤ちゃんが苦しんでいるかどうかを確認する唯一の手段が失われ、その後、約1時間30分にわたり、赤ちゃんの状態は確認されないままでした。

赤ちゃんの酸素不足が疑われる状況でモニターを外してしまったことで、

  • 赤ちゃんの状態がいつ悪化したのか
  • 低酸素状態がどこまで進行しているか

を把握することができなくなり、次にモニターを再開したときには、すでにレベル5に相当するきわめて危険な状態となっていました。レベル5では、すぐに帝王切開や吸引分娩を実施するべき(急速遂娩(きゅうそくついべん)の実施)が求められています。

原因分析報告書でも、助産師が胎児心拍モニターを中断した対応は、「適切ではなかった」と評価されていました。

仮に、継続してモニタリングされていれば、より早い段階で異常を把握し、緊急帝王切開などの迅速な対応につなげられた可能性がありました。

緊急帝王切開の判断も遅れた

問題は、それだけではありませんでした。

赤ちゃんの心拍数がレベル5の異常波形を示した時点で、一刻も早く赤ちゃんを娩出する必要がありましたが、子宮口の開大はまだ3cm。初めてのお産であることを考えると、自然分娩で赤ちゃんが生まれるまでには、まだ相当時間がかかることが予想されるため、速やかに赤ちゃんを出生させるためには、緊急帝王切開を選択すべきでした。

ところが、朝になってCTG波形を確認した産婦人科医師も、経過観察を続けてすぐに帝王切開を実施しませんでした。その判断の遅れによって、赤ちゃんの低酸素状態はさらに悪化することになりました。 最終的には帝王切開が実施されましたが、赤ちゃんは産声を上げず、呼吸せず、ぐったりした状態で生まれました。

出生後に判明した「臍帯真結節」

赤ちゃんの出生後、へその緒に「臍帯真結節(さいたいしんけっせつ)」があったことが確認されました。

「臍帯結節(さいたいけっせつ)」とは、赤ちゃんと胎盤をつなぐへその緒に結び目ができてしまう状態です。

臍帯結節には、実際には結び目はなく組織が捻じれて厚くなっている「臍帯(さいたい)偽結節(ぎけっせつ)」と、完全に結び目ができている「臍帯(さいたい)真(しん)結節(けっせつ)」があります。

臍帯真結節があっても、多くの場合は結び目が緩く、問題なく出産を終えることができます。

しかし、

  • 破水して羊水が少なくなっている
  • 分娩が進行して、へその緒が引っ張られる
  • 結び目が強く締まる

といった状況になると、へその緒の血流が悪くなり、赤ちゃんに酸素が十分に届かず

胎児機能不全(胎児低酸素状態)を引き起こすことがあります。場合によっては、おなかの中で赤ちゃんが亡くなってしまうこともあります。へその緒の血流が悪くなると、胎児心拍モニターの波形に、「赤ちゃんの酸素が足りない」というサインが現れますので、そのサインを正しく読み取る必要があります。

今回の事案では、入院したときには、お母さんはすでに破水しており、羊水が少なくなりはじめていました。モニターでも、入院当初から異常な波形が現れていました。 しかし、モニターは外され、翌朝、胎児心拍モニターを再開したときには、レベル4の異常波形が出現していました。それにもかかわらず、モニターが外され、次にモニターを再開した時にはレベル5の異常波形となっていました。

破水していたことも踏まえて、入院当初から赤ちゃんの心拍数波形の異常を慎重に評価し、継続して監視することが極めて重要だったと考えられます。

原因分析報告書でも、「破水による羊水量の減少と臍帯真結節により、臍帯が圧迫されやすい状態だった可能性」が指摘されていました。

(原因分析報告書から抜粋)

帝王切開が決まったときには、赤ちゃんは深刻な状態に陥っていた

胎児心拍モニターでレベル5に相当する異常波形が明らかになってから約25分後、担当医師が、ようやく緊急帝王切開を決定しました。しかし、帝王切開は「決定した瞬間」に赤ちゃんが生まれるわけではありません。手術室への移動、スタッフの招集、麻酔、手術の準備などを経て、実際に赤ちゃんが娩出されるまでには一定の時間を要します。理想は、決定から30分以内といわれていますが、日本の多くのクリニックでは30分以上かかるのが現実です。そのためレベル4の段階で準備を始めなければならないといわれています。

生まれた赤ちゃんは、

  • 自発呼吸がない(おぎゃーの「うぶ声」がない)
  • 心拍が極めて弱い
  • 刺激にも反応しない (全身がだらんとした状態)

という重症新生児仮死の状態で生まれ、その後に「低酸素性虚血性脳症(HIE)」と診断されました。

HIEは、脳へ十分な酸素が届かなくなることで起こる障害で、重症の場合には脳性麻痺など赤ちゃんに重い後遺症が残ることがあります。

ご家族の生活は大きく変わった

お子さんには重度の脳性麻痺が残りました。日常生活のほぼすべてに介助が必要な状態となり、通院やリハビリも継続して行う必要がありました。

お母さんは退職せざるを得なくなり、24時間体制で介護を担うことになりました。お父さんも勤務時間を減らして、介護を続け、ご家族全員が大きな生活の変化を余儀なくされました。

介護のために仕事を続けられなくなることや、将来の生活設計を見直さざるを得なくなることからすれば、適切な補償を受けることは、単に金銭の問題ではなく、お子さんとご家族が安心して生活を続けるための大切な基盤となります。

病院から調停を申し立てると言われたら、そのまま応じてもよいか?

病院側は、手紙で補償について話し合いたいという姿勢を示していました。しかし、話し合いによる交渉では病院側には顧問弁護士がいますし、調停手続を病院主導で進められてしまい十分な主張をできないまま不本意な結果になるリスクがありました。

本件の病院からの手紙でも、必ずしも病院内で意見が一致しているわけではない、全額を賠償する必要があるかどうか決まっていない、という内容が書かれていて、調停で金額を考える際にも、病院側が自分たちの言い分を主張して金額を少しでも低く抑えようとすることが予想できました。

さらに、医療ミスの事案でよくあるのは、病院の医師や看護師、助産師が個人の判断で「もうしわけありません」と謝罪していても、最終的に、必ずしも十分な補償が受けられるとは限らないということです。医師は謝ったのに、病院としてはミスを認めない、医師が勝手に謝っただけ、といわれるようなことも珍しくありません。病院と医師の考えが全く違うということもよくあります。

産婦人科の出産事故の場合でも、「誠意ある対応を行う」、「責任を認める」といいながら、実際に私達弁護士が交渉を始めてみると、「産科医療補償制度で支払われる3000万円の範囲で解決したい」(自分たちとしては1円も払わない)と回答してくる医療機関が少なくないのです。

産科医療補償制度の3000万円は、一定の要件を満たせば、医師や病院にミスがあってもなくても支払われる無過失補償です。一方、賠償責任は、過失や因果関係が認められた場合に限って支払われるものですので、過失や因果関係を証明(立証)しなければ賠償させることはできません。

今回行った調停手続は、話し合いをしようとする場合に裁判所で、調停委員という調整役が仲裁をしながら金額を決めていく手続きです。本人でもできる手続きですので弁護士に依頼せず進めることも可能です。しかし、今回のような医療ミスが問題になるケースでは、医学的知識を持っている医療機関側(医師や病院等)が有利に話し合いを進めることが出来てしまいます。そのため、患者さん達と一緒に、事前にカルテなどを全て入手し、ミスの中身や証拠になりそうな医学文献などを十分検討、収集しておかなければなりません。

その時のポイントは、病院側がどんな主張をしてくるのか、それに対する反論ができるのか、反論に根拠はあるのか、専門医の意見書等が必要かを確認・検討しておくべきです。

医学的・法的な争点が複雑に関係しあう医療事故では、どのような事実を主張し、どの証拠を提出するかによって賠償金額が大きく異なります。特に、調停委員は医学知識がない法曹関係者なので、病院側の言いなりになってしまうリスクも常にあります。

本件では、事前準備として十分に検討し、ご家族とも打ち合わせを重ねたうえで、

  • 裁判所の医療事故に詳しい医療集中部での「医事調停」手続を選び
  • 必要であれば訴訟へ移行できるよう準備を整えておき
  • 医学的評価と法的評価を整理しながら交渉を進めること

を基本方針としました。

通常の「調停」と異なる、「医事(いじ)調停(ちょうてい)」というのは聞きなれない言葉かもしれません。大きな裁判所には、医療ミスなどの事件を集中的に扱う医療集中部という専門裁判所があります。そのような機能を有する地方裁判所に申立をする方法です。通常の調停は簡易裁判所で行われる手続きで、調停委員は医療事件の知識や経験が十分ではないことが多い一方、医事調停手続では、裁判官も医療に関する多少の知識を持ってくれていますので、医学的な論争が起こる可能性がある場合には、一般的な調停手続よりもスムーズに議論を進めることが出来るというメリットがあります。一方、専門部では一般的に審理がスピーディーで、申立をしてから検討しよう・・・というような姿勢では十分な主張をすることが出来なくなります。話し合いがうまくまとまらず決裂した場合には、結局、裁判手続に移行することもあります。

それらのこともご家族と十分話し合い、今回は、医事調停申立書を作成する際に、訴訟への切り替えがスムーズにできるよう、訴状と同じ詳しさで(40頁以上)、証拠も整理して(医学文献など15号証)等を提出しました。タイトルを「訴状」に変えれば、ほとんど裁判の訴状と同程度まで詳しく作成し、いつでも裁判に切り替えられるよう準備しました。

調停手続では医療集中部の裁判官主導で、争点を十分整理してもらうことができ、病院側も過失や因果関係を激しく争ってくることはなく、重度脳性麻痺発症との相当因果関係が認められることを前提としての調停手続を進めることができました。

将来にわたる介護や医療費も見据えて損害額を算定

お子さんが重度脳性麻痺となってしまった場合、損害は入院費や慰謝料だけではありません。

将来にわたり、

  • 介護費
  • 医療費
  • 通院交通費
  • 介護用品・補装具費
  • 福祉車両費
  • 自宅改修費
  • 将来の逸失利益
  • 慰謝料

など様々な費用が必要になります。

当事務所では、損害賠償の最終的な解決額を考えるにあたり、ご家族の将来に本当に必要な費用を、最初から「できる限り全て」示すことを大切にしています。今回も、調停手続とはいえ裁判になった場合と同じ基準に基づいて積算しました。ご家族には、将来にわたってお子さんに必要となる費用を、丁寧に一つひとつ積み上げて領収書などを集めていただきました。

算定した結果、請求額は4億円を超えました。脳性麻痺になったお子さんの正当な賠償金額を計算すると少なくとも3~4億円に至ります。

医療事故による損害は、現在支払っている費用だけではありません。

お子さんがこれから何十年にもわたって安心して生活できるよう、将来必要となる費用まで見据えて検討することが重要です。

医事調停により2億7000万円で解決

調停申立の段階から、医学的な問題点や損害額の根拠を詳しく説明し、詳細な証拠資料も提出していたため、初回の調停期日において調停委員である医療集中部の裁判官には事案の内容や賠償金額の内訳などについて十分理解していただいていると感じました。

病院側の代理人も、医学的な争点(過失や因果関係)は争わず、賠償額を中心に協議を進めたいという姿勢でした。しかし、医事調停を進めるにあたり、病院からは、金額が大きいため医師や助産師にも責任負担をしてもらいたいとの希望が出されました。医師と助産師にも参加してもらうよう求めたところ、担当医師は手続きに加わりましたが、助産師は自分には責任はないという回答を送ってきました。事実経過から考えれば助産師の責任も相当重いと考えられるケースでしたが、助産師も加える手続きをするためには裁判手続に切り替えなければならず、長期化することが予想されたため、依頼者のご両親と相談の上、調停手続での解決を進める決断をしました。複数回の調停期日にわたって協議を行いました。

調停手続の期日(裁判所で開催される手続き)には、ご両親とお子さんが、ほぼ毎回、調停に参加して下さいました。お子さんの障害の実情や、介護をするご両親の状況を実際に、裁判官に直接見ていただくことができたことは、大きな意味があったと思います。

最終的には、双方の話し合いにより、医学的資料や介護実態、過去の裁判例などを踏まえ、裁判官の作成した調停案をもとに、双方が何度か協議を重ね、病院と担当医師が共同して2億7000万円(産科医療補償制度による既払金を含む)を支払う内容で調停成立となりました。

弁護士からのコメント

出産においては、胎児心拍モニター(CTG)の評価や、その後の対応が赤ちゃんの将来を左右することがあります。

産科医療補償制度の原因分析報告書で問題点が指摘されているかどうか、その指摘内容によっても、その後の交渉や調停の進め方や結果は大きく異なります。

特に、

  • 胎児心拍数波形の異常を指摘された
  • 緊急帝王切開が遅かったのではないかという疑問がある
  • 原因分析報告書に「一般的ではない」「基準を満たしていない」と記載されていた
  • 病院から突然、謝罪や調停の提案を受けた
  • 無痛分娩や出産時の脳性麻痺について病院の対応に疑問がある

という場合には、医学的評価と法律上の責任や賠償金額を整理したうえで、適切に相手方に対する主張を固めて対応する必要があります。

出産時の医療事故は、ご家族にとって人生を大きく左右するできごとです。

だからこそ、私達弁護士は、何が起きたのかを正確に把握し、適切な補償と再発防止につなげることこそが使命だと考えています。

本件では、医学的資料の検討から損害額の算定、調停手続の進行まで一貫してご家族と一緒に対応し、満額ではなかったものの、ご家族にとってある程度納得のできる解決を実現することができました。

出産時の医療ミスは、時間が経過するほど資料の収集や事実確認が難しくなることがあります。病院から説明を受けたものの納得できない場合や、産科医療補償制度の原因分析報告書の内容について疑問がある場合には、一度、医学的・法的な観点から状況を整理してみることが重要です。

当事務所では、出産時の医療ミスによって脳性麻痺事案にまきこまれてしまったご家族のために、出産事故を重点的に取り扱い、原因分析から損害賠償請求まで一貫してサポートすることを理念にして勉強を続けています。今も大変な毎日を送っておられるご家族のために、特に自分を責めておられるお母さんのために、何かできることがないか、いつも考えています。

こんな相談をして大丈夫だろうか?と迷っておられる方はまだまだ多いと思います。当事務所では、カルテの検討や交渉の見通しを一緒に検討する際に費用はいただいていませんので、相談だけでも大丈夫です。

今回、ご両親からは、自分たちも当事務所のホームページの記事を読ませてもらい、行動を起こす決心ができた、とお聞きしました。だからこそ、ご両親は、この解決事例の作成に当たって「私たちと同じような思いをしているご家族のために、何かの助けや救いになって欲しい」、「今迷っている方に届いてほしい」と言っていただき、モニターの記録の詳しいグラフの掲載も、どんどん活用してくださいと心強いお言葉をいただいています。

このコラムやご両親の思いが、今も悩んでいるご家族に届きますように。どうか、勇気をもって、初めの一歩を踏み出していただきたいと心から思います。

以上

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この記事を書いた人(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。

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