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産科医療補償制度の原因分析報告書「医学的妥当性がない」ってどういうこと?!
産科医療補償制度の補償対象となったお子さん、保護者が受け取ることができる「原因分析報告書」。
この報告書には、なぜ脳性まひとなったのか、ご家族が真実を知るためにとても重要な内容が書かれています。
しかし、誰が読んでもわかる内容の報告書であるべきところ、実際は医学用語が多く、保護者の方々には理解しにくく、読み方を聞ける先もないのが現状です。
お手元にある原因分析報告書について、どう解釈すればよいのかわからずにいるご家族へ、必要な情報を届けることができればと思っています。
産科医療補償制度とは
産科医療補償制度は、出産に伴って発症した重度の脳性まひのお子さんと、そのご家族を対象とした過失の有無に関係なく補償が受けられる制度です。要件を満たし、補償対象となった場合は経済的負担の補償とともに、再発防止のための原因分析が行われます。
原因分析は何をするのか
原因分析委員会による分析
運営組織内にある原因分析委員会によって公平かつ中立的な立場で原因分析が行われ、なぜ起こったかを明らかにし、同じような事例の再発防止のために役立てられます。
原因分析委員会は、産科医や小児科医、弁護士などから構成されています。
補償対象となった全てのお子さんが原因分析の対象となり、その際に作成されるのが「原因分析報告書」です。
保護者からの意見や質問を提出することができます
補償が決定されると、まずは出産した分娩機関から提出されたカルテや検査データをもとに作成された「事例の経過」がご家族のお手元に届きます。
これは出産の経緯が時系列で淡々と書かれているものなので、お産で壮絶な体験をされたご家族にとっては何とも簡単なものに感じられるかもしれません。
この事例の経過を読んで、記憶と異なることや疑問・質問を「原因分析のための保護者の意見」として運営組織に提出します。
提出までの期限は30日以内とされているようですが、延長してもらうこともできます。
当時の記憶を振り返ること自体容易いことではないと思いますし、難しい医学用語が並んだ書面に対して何を質問していいのかもわからないことがほとんどではないかと思います。
早くにご相談に来られたご家族と一緒に、弁護士として質問を考えるお手伝いをすることも多いです。お気持ちや疑問など気になることをすべて書いて送るとよいと思います。
原因分析報告書に書いてあること
原因分析報告書は、分娩機関、保護者からの情報収集を経て作成された事例の経過をもとに、「臨床経過に関する医学的評価」を含めた最終的な分析結果を示すものです。
原因分析報告書は以下のように構成されています。
- はじめに
- 事例の基本情報
- 脳性麻痺発祥の原因
- 臨床経過に関する医学的評価
- 今後の産科医療の質の向上のために検討すべき事項
- 事例の経過
産科医療補償制度の申請をしてからこの報告書を手にするまで、1年以上もの時間がかかることが多くあります。真実が知りたいと行動されたご家族にとっては、長くもどかしい時間ではないかと思います。
適切な医療だったのかを知る
原因分析報告書の「4」にある「臨床経過に関する医学的評価」を見ることで、出産の現場で行われた医療が適切だったのか、を知ることができます。
ここには産婦人科診療ガイドライン等に沿った医療が行われていたかを専門家たちが評価した内容が記載されています。重要となるのはその評価に用いられる表現です。
統一的な評価にするために6つの表現パターンで分けられています。
評価についての表現は次の通りです。
(※産科医療補償制度HP「原因分析報告書作成にあたっての考え方」より引用し、加筆しています。)
一般的ではない/基準を満たしていない
もし、お手元の原因分析報告書に「一般的ではない」や「基準を満たしていない」と書かれていたら、どう感じられるでしょうか?
当事務所に相談に来られた方のケースを見てみます。
あいまいな表現で、ピンとこないのではないでしょうか。
一般的でない=間違っている?
「一般的」ってどういうこと?と。適切な対応ではなかったというような印象をうけられませんか?
「一般的でなない/基準を満たしていない」という記載は、医療行為が適切であったのか、状況にもよりますが考慮が必要な場合があります。
それでは、次の場合はどうでしょうか。
医学的妥当性がない
「医学的妥当性がない」との記載がある場合、産婦人科診療ガイドラインに書いてあることから「著しく乖離(かいり)している」「不適切」なものという意味です。
つまり、行われてはならない対応であり、医療ミスとして過失を問える可能性が高い医療行為といえます。
慎重な産婦人科の先生からすると、“ありえない”医療行為だと思うようなケースもあります。
こちらの例にはわかりやすく色づけをしていますが、実際には、ご家族にとってとても重大なことが、淡々と書いてあるのです。
この「医学的妥当性がない」という記載を読んで弁護士事務所に連絡した、というご家族もおられます。
ご家族の疑問を解決するためにできること
原因分析報告書は、「誰が悪い」など責任を追及するためのものではないため、もっと踏み込んだ言葉が欲しいと感じるご家族も少なくありません。当事務所ではそんな疑問に答えるお手伝いもしたいと考えています。お手元の原因分析報告書を読んで、どういうこと?問題はなかったのかな?と納得がいかずにおられる方のお力になれたらと思います。
また、これから産科医療補償制度の申請を始めるご家族の中にも、お産をした病院の対応に疑問を持っておられる方がいらっしゃるかもしれません。
私たち医師・弁護士がかかわることで、ご家族のモヤモヤとした気持ちを整理して、今後病院に賠償責任を求める交渉も視野に入れながら、原因分析報告書を作る専門家に向けて、少しでも建設的な報告書にしてもらうよう「保護者の意見」の作成をお手伝いすることも可能です。
悩まれている方は、まず、疑問点を解決するだけでも一歩前へ進めると思っています。お気軽にお問い合わせください。
この記事を書いた人(プロフィール)
富永愛法律事務所医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)
弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。