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張り止めにリトドリンを使っているのは日本だけ! 日本の切迫早産治療、このままでいいの?

2025.05.12

富永愛法律事務所 医師・弁護士 富永 愛 です。
司法試験に合格し、弁護士事務所での経験を積んだ後、国立大医学部を卒業し医師免許を取得
外科医としての勤務を経て、医療過誤専門の法律事務所を立ち上げました。
実際に産婦人科の医療現場を経験した医師として、法律と医学の両方の視点から産科を中心とした医療問題について発信します。
出産のトラブルでお困りの方は、是非一度お問い合わせください。


出産時期より早く、出産に進みそうな症状が現れてしまう「切迫早産せっぱくそうざん」。ここ最近、その治療に使われる薬・リトドリンや安静という対応について、議論が始まっています。海外と日本の切迫早産治療の違い、薬の問題点に注目しました。

切迫早産とは?

まだ赤ちゃんが生まれてくるには早いのに、陣痛を思わせる規則的なお腹の痛みがやってきたり、子宮の入り口が開きかけたり、破水したり。このように、正期産となる37週より前に出産のきざしが現れてしまうことを「切迫早産」といいます。
言葉が「早産」で終わるので、もう赤ちゃんが生まれてしまっているようにイメージされることもありますが、切迫早産はあくまでも「このままだと早産に進んでしまう状態」。早産(の)切迫とひっくり返すとわかりやすいかもしれません。
言うまでもなく、赤ちゃんにとって、十分に育ち切らないまま生まれてくることはリスクです。そのため、切迫早産の妊婦さんには、早産を食い止めるための治療が行われます。
しかし、その治療内容が、日本と海外で大きく異なっているということは意外と知られていません。
そう、日本の切迫早産の治療は、完全に独自路線をつきすすんできたのです。

日本と海外の切迫早産治療はこんなに違う

では、日本と海外の切迫早産治療はどう違うのでしょうか。

日本では、ほとんどの施設でリトドリン(商品名:ウテメリン®、ルテオニン®、リトドール®など)という薬が使われます。差し迫った症状がある妊婦さんは入院し、24時間点滴しながらベッド上で過ごすよう指示されます。入院までは不要とされた妊婦さんも、「張り止め」としてリトドリンの飲み薬が処方され、自宅で安静にするよう指導されます。
薬と安静は、いったん切迫早産の症状が落ち着いたあとも続けられます。入院になった妊婦さんの場合、37週になるまで数週間・数カ月単位でベッド生活になることも珍しくありません。

しかし諸外国では、このリトドリンと安静が大きく見直されました。

まず、アメリカでは、リトドリンは2011年に発売中止になっています。妊婦さんと赤ちゃんの両方に強い副作用が出ることがあり、身体の負担が大きいと判断されたためです。
欧州でも、リトドリンや、それと同じタイプの子宮収縮抑制剤(短時間作用型β2刺激薬)は2013年に規制されました。飲み薬のリトドリンは使用禁止。点滴は使えますが、使える期間は使用開始から48時間までに限られました。これは、1992年頃の研究発表によって「張り止め薬で妊娠を引き延ばせるのは48時間までで、それ以降の効果は不確実」(※)ということが明らかになっているためです。

また、安静は海外でも行われてきましたが、今も昔も「安静は早産防止に効果的」とはっきりと示すデータはありません。一方で、デメリットの指摘は多数です。血栓ができやすくなる、心血管の機能が衰える、そして妊婦さんが深刻なストレスや妊娠そのものへのモヤモヤを抱えやすくなるという精神的なマイナス点も……。
こうしたいろいろな問題点を無視できず、最近、安静は見直される傾向になってきています。

※ The Canadian Preterm Labor Investigators Group:Treatment of Preterm Labor with the Beta-Adrenergic Agonist Ritodrine. N Engl J Med 1992;327:308-312

リトドリンは副作用が大きい薬

リトドリンが海外で問題視された理由として大きなものが、副作用の強さです。
妊婦さん本人がすぐ自覚する副作用には、動悸や頻脈、ふらつきやふるえ、しびれがあります。それ以外にも、筋肉が破壊されることで身体の各所に不調が起こる横紋筋融解症や、肝機能の障害といった重大な副作用が起こることがあり、赤ちゃんにも心不全、頻脈といった形で影響が及ぶことがあります。
なお、飲み薬は副作用の出方が強いと言われています。少しネットを検索するだけで「リトドリンがきつい」と愚痴をこぼしたり、励ましあったりする妊婦さんたちのコメントが見つかるのは、その証明かもしれません。

「今まで通り」を変えて妊婦さんの利益に

リトドリンの長期使用にしても安静にしても、海外では制限や見直しの対象になっている対応が、なぜ日本では続けられていくのでしょうか。

その根本的な理由は、欧米との考え方の違いにあるのかもしれません。欧米は日本とは医療費のかかり方が違うため、「無駄な医療は行わない」という合理主義を起点に物事を判断するところがあります。一方、日本は、「できることは何でもやっておくほうがいい」「今まで通りに行うほうが無難」と、根拠よりも安心感を優先する傾向があるように思われます。

もちろん海外も日本も、妊婦さんと赤ちゃんの利益を考えているのは間違いありません。また、日本は欧米より早産の割合が低いという事実もあります。日本式の治療・管理が一定の成果を上げている可能性はなくはないでしょう。
ですが、日本のやり方は妊婦さんの負担が大きいのもまた事実です。どちらかというと、「赤ちゃんのためなら母親はがんばるべき」という考え方が大きく、そのために妊婦さんが余計な負担を引き受けさせられている側面もあるのではないでしょうか。
今後、「今まで通り」が見直され、無駄な医療や妊婦さんの負担が減ることが期待されます。

この記事を書いた人(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。

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