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子宮外妊娠(異所性妊娠)とは?見落としによってもう少しで亡くなっていたケースも

2024.05.31

富永愛法律事務所 医師・弁護士 富永 愛 です。
司法試験に合格し、弁護士事務所での経験を積んだ後、国立大医学部を卒業し医師免許を取得
外科医としての勤務を経て、医療過誤専門の法律事務所を立ち上げました。
実際に産婦人科の医療現場を経験した医師として、法律と医学の両方の視点から産科を中心とした医療問題について発信します。

子宮外妊娠は、正式には異所性妊娠といわれ、100例の妊娠のうち約1~2例で起こり、妊婦さんの死亡例は、多い時で年に2~3例ほど起きています。

子宮外妊娠の発症率は性行為感染症(とくにクラミジア感染症)の蔓延により近年増加傾向にあるといわれています。

今回は、子宮外妊娠とはどんな病気なのか、子宮外妊娠で最も頻度の高い卵管妊娠を中心に診断や治療法、当事務所の相談事例をご紹介します。

なお、現在「子宮外妊娠」は専門的には「異所性妊娠」という名称で統一されていますが、ここでは一般的に聞き覚えのある「子宮外妊娠」と呼ぶことにします。

子宮外妊娠(異所性妊娠)とは?

本来ならば子宮内膜に着床するはずの受精卵が、子宮外の組織に着床することで起こります。

子宮外妊娠で最も多いのは、卵管妊娠です。着床する部位によって頸管妊娠、卵巣妊娠、腹腔妊娠などがあります。子宮内膜以外に着床した場合、胎児は成長できません。

どんな人がなりやすい?

  • クラミジアなど性感染症の既往がある
  • 卵管の異常がある(卵管が狭くなっている、ふさがっている)
  • 子宮内膜症
  • 子宮外妊娠の既往がある
  • 体外受精による妊娠
  • 中絶や卵管結紮術の手術歴がある

症状

性器出血、下腹痛などが起こります。
子宮外妊娠の組織が破裂するまで気が付かないこともあります。破裂すると、下腹部の激しい痛みが起こり、出血が多い時はふらつきや貧血の症状が出ることもあります。

発見が遅れると出血によるショック状態から死亡することもある危険な病気です。

診断

腹痛や性器出血などの症状と併せて、妊娠検査が陽性であるのに超音波検査で胎嚢が子宮内に確認できない場合、子宮外妊娠を疑います。
超音波検査で子宮以外の部位に胎嚢を確認することができれば子宮外妊娠と診断できます。

正常な妊娠でも、ごく初期で胎嚢が確認できないこともあるため、血液検査で血中のhCGという妊娠中に作られるホルモンの量を調べて、子宮外妊娠との判別を行います。

治療

卵管妊娠では、従来は開腹手術で卵管ごと摘出する方法が主流とされていましたが、将来妊娠を希望する人や、患者さんの状態に合わせて、卵管を温存する方法も選択されるようになりました。

治療法は根治手術と保存的治療の大きく分けて2つあります。

根治手術

今後妊娠を希望しない人や、患者さんに出血やショック症状がある場合、開腹手術により卵管摘出術が行われます。
全身状態が落ち着いている場合には、腹腔鏡での手術になることもあります。

保存的治療

将来の妊娠の可能性を高めるため、保存的手術や薬物療法が選択されることがあります。

  • 保存的手術
    卵管を切開し胎嚢の組織だけを除去し卵管を温存します。
  • 薬物療法
    抗がん剤の一種であるメソトレキセート(MTX)を投与します。
  • 待機療法
    経過を観察しながら自然流産を待ちます。

保存的治療の適応には、患者さんに痛みや出血などの症状がないことや、血中hCGの数値、胎児心拍がない、病巣が小さいことなど、条件が限られているため希望する全ての人が選択できるわけではありません。

命が最優先であり、できる範囲で最善の治療が選択されることになります。

当事務所に相談のあった実際のケース

経膣超音波検査や高感度妊娠診断薬が普及し、子宮外妊娠を早期に診断できるようになり、卵管破裂から出血多量になるようなショック症例はほとんど経験されなくなったといわれています。

しかし、実際には当事務所にはここ1ヶ月の間にも診断や対応が遅れた2件のご相談がありました。学会報告や症例報告が行われていないケースはまだまだあるという印象です。

大学病院で子宮外妊娠を胃腸炎と誤診

ずさんな救急医の対応

患者さんは、妊娠5週目でお腹に耐えがたい激痛が走り、救急車を呼びました。
お腹が痛いとのたうち回っていたのに、救急搬送先の大学病院では触診と血液検査だけで「胃腸炎じゃないですか?」と言われ、帰宅しました。

家に帰っても寝られないほどの痛みが続き、トイレにもいけない激痛と意識が朦朧としはじめ、尿失禁状態にもなりました。
やはりおかしい!と感じたご主人が、もう一度救急車を呼び、一度目と同じ病院に搬送されましたが、担当した救急担当医は、激しい痛みを訴える患者さんに、「胃腸炎なのに、入院したいんですか?」というようなことまで言ったそうです。

子宮外妊娠の破裂

実際には、左卵管の子宮外妊娠が破裂し、腹腔内に2リットルもの出血がありました。

ショック状態になって意識が朦朧としているのに、まともに取り合ってくれない医師に、ご主人が「こんなに痛がっているのは尋常ではない。ちゃんと診察してほしい!」と伝えたことをきっかけに、それなら…と実施された腹部エコーで腹腔内の大量出血が判明した経緯でした。産婦人科医ではない2人の医師が見落としていました。

産婦人科医にバトンタッチされてからは、緊急手術と輸血を行ってなんとか一命を取り留めました。


初めに対応した医師や、2回目に「入院したいのか?」と偉そうに言っていた医師たちは、患者さんが入院中、一度も病室を見に来ることはなかったそうです。
その対応に対して、ご本人とご主人は納得できるわけもなく、当事務所に相談がありました。

子宮外妊娠の裁判例

子宮外妊娠について、医師の過失が認められた裁判例もあります。

子宮外妊娠を卵巣機能不全等と誤診した医師の過失を認めた事例(東京地裁 平成5年8月30日判決)

弁護士のコメント

同じ女性としては、毎月の生理による激痛に耐えているような元気な若い女性が「救急車を呼びたくなるような腹痛を訴えている」となれば、それだけで何か得体のしれないことがお腹の中で起こっている、と想像できます。

その一つに、命を落とすこともある子宮外妊娠も含まれています。
大抵のケースは、心ある医師がきちんと診断し、卵管を温存することもでき、患者さんたちはごく小さな傷で元気に回復していきます。

しかし、何かがおかしい・・・という「やばい感じを察知する能力」が乏しい医師に当たってしまった患者さんは、残念ながら亡くなってしまうこともあります。

今回のご相談も、ご主人が「おかしい!」と声を上げなければ、出血多量で亡くなっていてもおかしくなかったと思います。

医療従事者の一員としては、当時の状況についてお話を聞いているだけでも背筋がゾッとしました。

お話を伺っている間も、ご本人は「私は死ぬのかもしれないと思った」と当時の状況を振り返りながら溢れる涙を抑えられない様子でした。亡くなっていたら、残されたご主人や小さいお子さんはどうなっていただろう、と思います。

生理痛の痛みを知らない人達には、何十年にわたって毎月の激痛を耐えている女性の強さについて、改めて考え直してほしいと思います。医療従事者として必要な想像力を備えた医師が一人でも増えてくれることを祈りたいです。

今回、ご相談者が救われた気持ちになったのは、緊急手術を行ってくれた産婦人科の先生が、子宮外妊娠の典型的な経過だったことを、救急を担当した医師を擁護したりせず、きちんと説明してくれたことだとおっしゃっていました。

一方で、初めに担当した医師は、患者さんが訴えていない「下痢があったから胃腸炎だと思った」というウソまでついて、産婦人科の先生に対して自分のミスを隠そうとしていたそうです。
そのことが後からわかり、許せないともおっしゃっていました。

トラブルを起こしてしまったときにこそ人間性が出るものだと思います。
今は患者さんたち自身で簡単にカルテ開示ができるようになり、ネットで様々な医療情報も集めることができます。

ミスをしたことよりも、「明らかなウソ」の方が患者さんたちを怒らせてしまうということ、一人の人間として許されないということを医師には知ってほしいと思います。

この記事を書いた人(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。

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