新着情報
「妊婦さんは葉酸を!」 これってどうして?

富永愛法律事務所 医師・弁護士 富永 愛 です。
司法試験に合格し、弁護士事務所での経験を積んだ後、国立大医学部を卒業し医師免許を取得。
外科医としての勤務を経て、医療過誤専門の法律事務所を立ち上げました。
実際に産婦人科の医療現場を経験した医師として、法律と医学の両方の視点から産科を中心とした医療問題について発信します。
出産のトラブルでお困りの方は、是非一度お問い合わせください。
葉酸という栄養素が、「妊娠可能な女性は普段から摂取を」と推奨され始めたのは2000年です。
なぜ必要なのか、どのように摂取すべきなのか? ひととおりの情報をまとめました。
葉酸はどうして必要なのか?

ドラッグストアなどで多数見かける、葉酸の入ったサプリメント。妊婦さんをはじめ、実際に摂取している方も多数いらっしゃいますが、「いいと言われたから飲んでいるけれど、具体的に何に効くのかはよく知らない」「根拠はわからない」という声もちらほら。
結論から言うと、葉酸は妊婦さんにとても重要です。もっと正確に言うと、赤ちゃんが欲しいと思っている方は、日頃から習慣として摂るべき栄養素です。
なぜそういわれているのか? それは、1990年代の欧米で行われたたくさんの研究により、葉酸が「神経管閉鎖障害」という赤ちゃんの先天異常の予防に有用ということが結論づけられたからです。
2000年12月、海外での多数の研究の結果を受けて、当時の厚生省は「これから妊娠するつもりの女性には、一定量の葉酸をサプリメントとして摂取するよう勧めること」と通達を出しました。葉酸の大切さは母子手帳にも記載されるようになっており、少なくとも妊婦さんが摂るべき栄養として、一定の認知はされているようです。
神経管閉鎖障害とは?

ところで、「神経管閉鎖障害」と読んだり聞いたりして、どういうものかイメージできるでしょうか? 心臓や消化器ならなじみもありますが、よくよく考えると、何を示しているのかぴんとこないことに気づきます。
では、神経管とは何で、それが閉じないと何が問題なのでしょうか。
神経管とは、受精卵が赤ちゃんの身体になっていく過程の「初期中の初期」に作られるパイプ状の器官で、のちに脳と脊髄(中枢神経系)のベースとなる部分です。
ではそのパイプがどのように形成されていくのかというと、まず受精卵の、やがて赤ちゃんの背中になるところに、ひとすじの溝が作られます。次に、その両岸が盛り上がって互いに近づき、溝を囲いこむようにくっついて閉じます。
神経管閉鎖障害とは、その閉じ方が不完全で、どこかが開いたままになってしまうことをいいます。
神経管がきちんとパイプ状に閉じなかった場合、脳や脊髄の形成に影響が及ぼされます。
代表的な神経管閉鎖障害は、二分脊椎、脳瘤、無脳症の3つです。
二分脊椎
背中の下のほうで、脊髄の一部が背骨の外に出ている状態になったものです。神経管を服の背中のファスナーのようにイメージしたとき、お尻に近いほうがうまくかみ合わず、閉じなかったときに起こります。
背中の皮膚がなく、脊髄が外から見える「開放型」と、皮膚に覆われている「閉鎖型」とがあります。また、水頭症やキアリ奇形(脳の一部が頭蓋骨内に収まらず、脊柱管の中に脱出する症状)などを合わせ持つ場合が多数です。
開放型であれば、生まれたらすぐ手術して、背中を閉じなければなりません。その後は、それぞれの症状に合わせた対応となります。症状は排便・排尿障害、歩行障害などです。
脳瘤(二分頭蓋)
神経管の上側(頭側)が閉じきらなかったことが原因で、頭蓋骨の一部が欠けた状態となり、そこから脳が飛び出してこぶのように見えるものをいいます。後頭部に生じることが多数ですが、顔面など、前頭部の場合もあります。
症状としては、けいれんや発達の遅れ、感覚や言語の障害などがありますが、どこにどのように脳瘤が生じたか、合併症があるかないかで異なります。後頭部の脳瘤の場合、手術によって、正常と変わらないお子さんとして成長できるケースも多いようです。
無脳症
脳瘤と同様、神経管の上側がきちんと閉じなかったことで、大脳のかなりの部分が欠けた状態になるものです。
残念ながら生まれて数時間~数週間で亡くなってしまうことが多いですが、お子さんによっては数年から10年、生存された方もいらっしゃいます。
葉酸は妊婦さんに欠かせないビタミン
では、葉酸とはそもそもどのようなもので、どう摂取したらいいのでしょうか。
葉酸とは?

葉酸は、ほうれん草の葉から見つけられたビタミンBの一種です。
ビタミンB群全般には、身体のエネルギーを作ったり、皮膚や神経、粘膜の健康を保ったりするはたらきがあります。その中でも、葉酸は細胞の生成に大きくかかわるはたらきをすることが知られており、特に妊娠初期の赤ちゃんが育っていくときには大量に消費されるといわれています。
いつから、どのくらい摂取する?

神経管閉鎖障害の予防に有用とされた摂取量は、1日0.4 mg。また、妊娠する少なくとも1ヶ月前から、妊娠12週まで摂取することが望ましいとされています。神経管が作られるのはとても早い段階で、閉鎖障害になるかならないかは、妊娠6週頃にはほぼ決まってしまうといわれるためです。
なお、これまでに神経管閉鎖障害のお子さんを妊娠したことがある女性は、それ以降の妊娠でお子さんが同じ障害になるリスクが高いことがわかっていました。しかし、このリスクも、葉酸摂取によって大きく減ることが判明しました。
このため、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)は、該当する方は1日4mgの葉酸を摂取するよう推奨しています。
ただし、日本では、4mgの葉酸を一回で摂れるサプリメントはありません。また、高用量の葉酸を摂り続けるリスクもわずかながら報告されているため、医師に相談することをおすすめします。
サプリメントが推奨されるのはなぜ?

サプリメントは健康食品扱いですが、見た目は錠剤です。このため「妊娠中は薬を飲むなと言われるのに、これを飲んで大丈夫?」と不安になる方や、「自然なものではないので、あまり飲みたくない。なるべく食事から摂りたい」と考える方も少なくありません。
でも、こと葉酸に関しては、サプリメントでとることが望ましいと考えられます。なぜなら、食品中の葉酸はいったん小腸で分解されないと吸収されず、実際に体内で利用される量は摂取した量の半分程度になってしまうためです。一方、サプリメントは最初から小腸で分解されたあとのかたちになっているため、体内での利用率は食品由来の葉酸よりずっと高く、効率的です。
そうはいっても、食事をおろそかにしていいわけではありません。バランスの良い食事をベースにしつつ、サプリメントで必要量を確保するのが最良の形といえるでしょう。
葉酸は野菜・果物に多く含まれており、中でもほうれん草やブロッコリー、枝豆などの緑黄色野菜には豊富です。その他、ノリやわかめなどの海藻類、大豆食品、キノコ類、卵も良いでしょう。
妊婦さんに葉酸は必要
神経管閉鎖障害は、「予防対策ができる、唯一の先天性障害」。もちろん葉酸をとれば必ず防げるわけではありませんが、リスクを大きく減らせるのはわかっているので、摂取するに越したことはありません。
妊娠を希望しているのなら、もしくはいま妊娠されているのなら、今すぐにでも葉酸の摂取を始めることをおすすめします!
この記事を書いた人(プロフィール)
富永愛法律事務所医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)
弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。