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無痛分娩で起こるかもしれない怖いこと

【医療専門】富永愛法律事務所 医師・弁護士 富永 愛 です。
出産のトラブル(赤ちゃんや妊婦さんの重篤な後遺症や死亡など)は当事務所にご相談ください。
実際に産婦人科の医療現場を経験した医師として、「これって本当に正しかったの?」「納得できないけど、どうしたらいいのか分からない」——そんな不安を抱えている方に、医学と法律の両方の視点から、安心できる一歩を踏み出していただけるようお手伝いします。
アナフィラキシーショック
「アナフィラキシーショック」とは薬剤のアレルギーによってショック状態になることです。
「アナフィラキシー」とは、アレルギー源となるもの(ここでは無痛分娩で使用される薬剤)の刺激によって全身の様々な臓器に強いアレルギー反応が起こることをいいます。アレルギー反応がさらに重篤化すると、脳などの全身の臓器に血液が循環できなくなるショック状態という状況になってしまい、心停止や呼吸が停止してしまうなどの命の危険があります。
多くの方は今までに様々な薬剤を使用してきた経験があると思います。薬剤を使うにあたり、アレルギーが起こる可能性は常にゼロではありません。今までアレルギーがなかった方にも急に起こることがあるといわれています。そのため無痛分娩で使用する薬剤でアレルギーが起こってしまい、アナフィラキシーショックを起こす可能性があります。
アナフィラキシーショックは、これから分娩を控える産婦さんだけでなく、性別や年齢など関係なく薬剤を使用する誰しもが起こる可能性がある症状です。
無痛分娩では、通常の分娩では使用する必要がない薬剤(麻酔薬など)をあえて使用します。無痛分娩を希望する産婦さんは、通常の分娩よりもさらにアナフィラキシーショックが起こってしまうリスクを誰もがいつでも持っているということになります。
特に、無痛分娩で使用する麻酔薬は、手術以外ではあまり使用する機会がない薬剤であるため、無痛分娩で生まれて初めて使用する産婦さんも多いです。そのため、無痛分娩を選択する産婦さんは、いつでもアナフィラキシーショックが起こるというリスクがあることを十分に理解しておかなければいけません。
アナフィラキシーショックが起きる前の、「アナフィラキシー(アレルギー反応)」の段階で気づき、すぐに対応する必要があります。そのため、産婦さんだけではなく、一緒に居るご家族も、アレルギー反応の症状を理解することで、産婦さんの異変に気付いて医師や助産師にすぐに伝えることができます。
症状
アレルギー反応の症状には個人差があり、初期に出現する症状も産婦さんによって様々で、無痛分娩が始まってからすぐに症状が出る産婦さんもいれば、少し時間が経ってから発症する産婦さんもいます。
最初に起こりやすい症状としては、
皮膚や粘膜に強いアレルギー反応が起こると、
- 皮膚に発疹がでてくる(蕁麻疹のような症状)
- 体がかゆくなる
- 顔や体が赤くなる など
呼吸器に強いアレルギー症状が起こると、
- 息苦しい
- のどが締め付けられる
- 声がかれる
- 咳や鼻水 など
消化器に強いアレルギー症状が起こると、
- 口やのどがかゆい
- 腹痛
- 吐き気・嘔吐 など
循環器に強いアレルギー症状が起こると、
- 血圧の低下
- 脈拍が速くなる
- 不穏状態(落ち着きがない状態) など
があります。
初期症状からさらにアレルギー反応が進行してしまうと、ショック状態となってしまうことで重症になると心臓や呼吸が停止します。
下記のような症状が少しでもみられればアレルギー反応を疑います。

一般社団法人 日本アレルギー学会「アナフィラキシーガイドライン」より抜粋
花粉症の症状もアレルギー反応であるため、花粉症に似た症状が出現した場合、薬剤のアレルギー反応の可能性もあるため、すぐに医師や助産師に伝えるようにしてください。
今までに何かの薬剤でアレルギーの反応が起こったことがある場合や、食べ物や触れるものでもアレルギーがあるというお母さんは、妊婦健診で事前に医師に必ず伝えておきましょう。他のものでアレルギーを起こしやすい体質の方は、薬剤でもアレルギーを起こしやすいといわれているからです。血液検査でアレルギーの検査の確定診断がされていなくても、食べ物や触れるものでアレルギーの症状が出ている場合は、そのアレルギーである可能性が高いので必ず医師に伝えるようにしてください。
既に無痛分娩で使用する薬剤のアレルギーを持っていることが分かっている場合には、無痛分娩を選択することはできません。
分娩に立ち合いされている家族も、分娩中に薬剤を使用してから産婦さんの状態が、なにかおかしいな、なにか変わったな、と少しでも思ったら、すぐに医師や助産師に伝えてください。
対応
少しでもアレルギーの症状が出てきた場合、すぐに麻酔薬を中止します。
無痛分娩の麻酔の合併症で血圧が低下することがありますが、その際はネオシネジンという昇圧剤(血圧の上昇を促す薬)を使用することが多いです。しかし、アナフィラキシーショックでの血圧の低下は、ネオシネジンが効きません。逆に、麻酔中に血圧が低下した時にネオシネジンを使用しても血圧が上昇しないという状況であれば、アナフィラキシーショックの状態と疑うことができます。この場合、血圧の低下を改善させる薬剤を使用するのではなく、アレルギー反応に対して作用する薬剤を投与する必要があります。
アレルギー反応には、「ボスミン(アドレナリン)」という薬剤を投与することが必要です。ボスミンは筋肉注射で投与するので、産婦さんの太ももに注射することが多いです。
血圧が低下してしまうと、全身の血液や酸素の循環が悪くなります。血液や酸素を全身に送るため点滴の速度を速めて、産婦さんに酸素マスクを装着し、産婦さんと赤ちゃんの循環を助けます。さらに循環をよくするために、お母さんの腕に刺さっている点滴の針をもう片方の腕にも留置し、両手で点滴を始めていきます。
子宮を左側に寄せて子宮の奥にある大きい血管の圧迫を取ってあげて全身の血液の流れをよくする子宮左方転移(下大静脈を押さえつけている子宮を、体を傾けることで左の方に動かし圧迫を解除する)という処置も行われます。
アナフィラキシーショックで呼吸や心臓が停止した場合、ただちに心臓マッサージを行い、人工呼吸を実施して呼吸を人工的に補助します。バッグ・バルブ・マスクというマスクを鼻と口にかぶせて酸素を肺に送り込む方法や、気管挿管(のどの奥に管を通すこと)を行います。クリニックであれば、心臓マッサージやバッグ・バルブ・マスクで酸素を送りながら、すぐに高度医療機関に搬送します。
無痛分娩にはアナフィラキシーショックのように、急変する可能性があるため、無痛分娩を行う産婦さんのまわりの環境の準備が非常に大事になってきます。そのため無痛分娩を開始する前に急変に備えて、産婦さんの全身にたくさんのモニターを装着することや産婦さんの近くに救急カートを準備、人員確保などの準備が大変重要です。
お母さんが急変したときにお父さんやご家族がその場にいた場合、お父さんやご家族はパニックになってしまい焦ってしまうと思います。ですが、必ず医師と助産師の指示をよく聞いてください。お父さんやご家族が取り乱してしまうと、医師や助産師はお母さんに対して迅速な対応ができなくなります。
パニックになってしまうと思いますが、その場に立ち会っていたお父さんやご家族の記録(スマホや手書きのメモ、写真、動画、通信の記録など)が、非常に重要な証拠になることがあります。急変が起こった場合には、万が一のために、できるだけ自分の見たことや聞いたこと等の記録は残しておくことをおすすめしています。
この記事を書いた人(プロフィール)
富永愛法律事務所医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)
弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。
