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妊婦さんの熱って危ない?

2025.05.09

富永愛法律事務所 医師・弁護士 富永 愛 です。
司法試験に合格し、弁護士事務所での経験を積んだ後、国立大医学部を卒業し医師免許を取得
外科医としての勤務を経て、医療過誤専門の法律事務所を立ち上げました。
実際に産婦人科の医療現場を経験した医師として、法律と医学の両方の視点から産科を中心とした医療問題について発信します。
出産のトラブルでお困りの方は、是非一度お問い合わせください。


「熱があるか・ないか」は、多くの方にとって、体調管理の大切な目安になっています。では妊婦さんにとって、発熱とはどんな意味を持つのでしょうか? ここでは、妊婦さんが気を付けたい発熱とそうでない発熱、発熱したときの対処法などをガイドします。

妊婦さんにとっての発熱

人の普段の体温はおおむね36℃台。多くの方は、37℃を超えたあたりで「なんとなく体調がおかしいな?」と感じるようになってくるのではないでしょうか。
定義としては、わきの下で測った体温が37.5℃以上を示したときが「発熱」とされています。

妊婦さんからすると、自分の発熱がお腹の赤ちゃんに影響するかどうかは、とても心配なことではないでしょうか。
結論から言うと、発熱そのものについては安心して大丈夫です。お母さんの発熱が赤ちゃんの発育に影響を与えることはほとんどありません。

とはいえ、熱が出る原因になった菌・ウイルスが赤ちゃんの健康や発育に良くない影響を与えたり、流産・早産の原因になったりすることはありえます。また、高熱で妊婦さん自身の体力が衰えてしまうことが、間接的に赤ちゃんに影響することがないとは言えません。

重要なのは「発熱していること」ではなく「どうして発熱しているのか」です。妊婦さんにとっても赤ちゃんにとっても、まず発熱の原因をつきとめることが大切となります。

心配な発熱とそうでない発熱。その分かれ目は「38℃」

発熱の原因になるものは、実はとてもたくさんあります。菌・ウイルスへの感染はもちろん、アレルギーや自律神経の不調、気温、時にはうつ病やストレスといった心の状態が発熱につながることもあります。

では、心配な熱かそうでないか、どのように判断したらいいのでしょうか?

心配ないと思われる発熱

体温が37℃台にとどまっていて、熱以外に気になる症状がない場合は、それほど心配はいらないと思っていいでしょう。

特に妊娠初期には、身体の熱っぽさやだるさを経験する方がよくみられます。これは、妊娠によるホルモンの変化で、基礎体温が上がりっぱなしの状態になるため。個人差はありますが、胎盤が完成する妊娠13~14週くらいになると落ち着いてくる方が多いようです。

気を付けたい発熱

気を付けたい発熱の目安は38℃。

38℃以上の熱になる場合、その原因の多くは感染症です。インフルエンザや新型コロナウイルスなど、発熱することで知られる感染症はもちろん、ノロウイルスや尿路感染症などでも38℃を超える熱が出ることがあります。

妊婦さんは感染症が重症になりやすいので、早めに受診しましょう。39~40℃に至る高熱、息苦しさ、頭痛や意識がもうろうとする感じが出てきているときは、何らかの感染症が重症化しかかっているかもしれません。

また、妊婦さん特有の注意点として、早産につながるお腹の感染「絨毛膜羊膜炎」があります。38℃以上の発熱に加え、お腹が張る、下腹部が痛む、お腹を押すと痛みが強まる……などの症状が出ているときは、すぐ受診してください。

妊婦さんの発熱は赤ちゃんからのサインのことも?!絨毛膜羊膜炎」もご一読ください。

予防しておきたい、高熱が出る感染症

熱が出る感染症の中には、妊娠中にかかってしまうと赤ちゃんに影響が及ぶ可能性のあるものがあります。また、その多くは根本的な治療ができず、症状をやわらげる治療をしながら治るのを待つことしかできません。

したがって、特に以下の感染症については、妊娠中にかからないよう予防することが大切です。過去にかかっていれば二度はかからないものも多いので、感染歴を確認したり、抗体検査を受けたりしておくと安心です。ご自身だけでなく、パートナーをはじめ、同居する家族の方にも気を付けてもらいましょう。

風疹

妊婦さんが風疹にかかると、赤ちゃんに難聴や白内障、生まれながらの心疾患といった影響が及ぶことがあります(先天性風疹症候群)。かかったときの妊娠週数が早いほど、赤ちゃんに大きな影響がある可能性があることがわかっています。

はしか(麻疹)

妊婦さんがかかることで流産・早産の確率が高まるといわれます。

また、出産まで日数が近い時期(10日程度)に妊婦さんが感染していた場合、生まれた赤ちゃんに感染してしまうこともあります(新生児はしか)。赤ちゃんのはしかは重症化しやすいといわれています。

水ぼうそう

妊娠初期から中期にかかると、ごくまれですが赤ちゃんに感染し、手足や目への発達への影響や、皮膚の色抜けのような丸いあと(瘢痕)などを引き起こすことがあります(先天性水痘症候群)。出産が近い時期に感染してしまった場合は、赤ちゃんにうつるのを避けるため、出産を遅らせる治療を行う場合もあります。

リンゴ病

頻度は高くありませんが、妊婦さんが感染すると、赤ちゃんの貧血、胎児水腫(全身のむくみ)につながることがあります。また、流産・死産のリスクも上がるといわれています。

自宅で休養するときは?

発熱したときの対応は、妊婦さんでもそうでなくても同じ。

身体を休める、水分補給する、必要に応じて冷やす、が基本です。

休養

感染症にかかったり体調を崩したりするのは、疲れて体力が落ちていたり、ストレスが溜まっていたりするということを意味します。そして、発熱はそれ自体が体力を消耗させるもの。まずは安静にして体力の回復をはかるのが大切です。

水分補給

発熱したときは汗をかきやすいので、水分不足にならないよう、こまめに水分補給していきましょう。飲むのは水やお茶でも良いですが、ミネラルの補給という意味では経口補水液、スポーツドリンクが適しています。

冷やす

額などを適度に冷やすことで身体が楽になったり、心地よく感じたりすることがあります。高熱のときはわきの下や首を冷やすと効果的です。熱中症など、気温に関係した発熱と考えられる場合も、しっかり冷やすようにしましょう。

なお、冷却ジェルシートはひんやり感を楽しむにはいいのですが、実際に温度を下げる効果はほとんどないことに注意が必要です。高熱のときは氷枕や凍らせたペットボトル、保冷剤などがおすすめです。

解熱剤は使える?

妊娠中は赤ちゃんへの影響を避けるため、本来は薬の使用を控えるもの。ですが、発熱のせいで妊婦さんの体力がすり減ってしまったら、それはそれで赤ちゃんにも悪影響かもしれません。つらいときは受診して、医師に相談することをおすすめします。

なお、アセトアミノフェン系の解熱剤は妊婦さんでも使用できることで知られており、市販薬もあります。けれど、添付文書には「妊婦への安全性は確立していない」という注意書きがありますし、医療者の間では「必要最小限・短期間の使用にとどめるべき」というのが共通認識となっています。自己判断では使用せずに、まず医師や薬剤師に相談してください。

妊娠中の鎮痛・解熱剤の使用は要注意です!産婦人科学会から妊婦さんに重要な情報が発信されました」で、妊娠中に気を付けたい解熱鎮痛剤について解説していますので、ぜひあわせてお読みください。

疲れをためず、体調優先の生活を

妊婦さんの発熱には、特に心配のいらないものも多いです。一方で、心配な高熱の原因のほとんどは感染症です。妊娠中はそれでなくても免疫力が落ちるので、普段から無理をせず、疲れがたまらないうちに休養することを心がけましょう。

出産のその日まで、どうぞ健康にお過ごしください。

この記事を書いた人(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。

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