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「レミフェンタニルを使った患者調節鎮痛」に麻酔学会と製薬会社がともに注意喚起。そのリスクはどんなもの?

2025.07.29

富永愛法律事務所 医師・弁護士 富永 愛 です。
司法試験に合格し、弁護士事務所での経験を積んだ後、国立大医学部を卒業し医師免許を取得
外科医としての勤務を経て、医療過誤専門の法律事務所を立ち上げました。
実際に産婦人科の医療現場を経験した医師として、法律と医学の両方の視点から産科を中心とした医療問題について発信します。
出産のトラブルでお困りの方は、是非一度お問い合わせください。


無痛分娩の最中、鎮痛麻酔薬・レミフェンタニルの副作用で産婦さんに心肺停止が発生した事例が報告されたことから、麻酔科学会に続き製薬企業が適正使用を呼びかける状況となりました。その呼びかけの内容はどんなものか、そしてレミフェンタニルとはどんな薬なのか、ご紹介します。

無痛分娩とレミフェンタニル

2025年7月14日、医薬品医療機器総合機構(PMDA)サイト内の「製薬企業からの適正使用等に関するお知らせ」の中に、無痛分娩に使用する麻酔薬について注意喚起する内容の文章が掲載されました(レミフェンタニル塩酸塩の適正使用に関するお知らせ)。

簡単にまとめると、次のような内容となります。

実は、上のお知らせより一年近く早い2024年8月30日、「レミフェンタニルを用いた分娩時鎮痛に関する提言」というかたちで、麻酔科学会が同じ内容の注意を出しています。

こちらの文書では、自分で呼吸している方にレミフェンタニルの副作用の呼吸抑制が現れると、一緒に胸壁などの筋肉が硬直する現象(鉛管現象)が出現する場合があることに触れています。これが出てしまうと、人の手でバッグを押して空気を送り込む呼吸補助では身体が受け付けてくれないうえ、口も開きにくくなるため人工呼吸器の管を入れることも困難になってしまい、助ける方法が限られてしまうといいます。

2025年の「お知らせ」は、すでにあった麻酔科学会による提言を、製薬会社がさらに念押したものといえるかもしれません。

レミフェンタニルの特性と使われ方

では、レミフェンタニルとはどんな薬で、どんなふうに使用されてきたのでしょうか。

レミフェンタニルとは

レミフェンタニルは全身麻酔・集中治療用の鎮痛剤です。

全身麻酔というと「使うと意識がなくなる薬」とイメージされそうですが、レミフェンタニルはあくまでも痛み止めで、意識には影響しません。現在の全身麻酔は、ひとつの薬ではなく効果が異なる複数の薬(意識をなくさせる、痛みを抑える、筋肉の緊張をゆるめる、など)を組み合わせて行う手法になっており、レミフェンタニルはそのなかで鎮痛を担当する薬ということになります。

大きな特徴は、短時間型の鎮痛薬であること。すぐ効果が出て、短い時間で効果が消えるため、手術の進行状況に合わせた柔軟な調整・コントロールができることが利点とされています。

無痛分娩でのレミフェンタニルは「患者調節鎮痛」に使われてきた

出産の痛みを取る方法は複数あります。

一般的な無痛分娩の鎮痛方法として知られ、諸外国でも第一選択とされているのは「硬膜外麻酔」ですが、静脈から鎮痛剤を点滴する方法もあります。そして、痛みが強くなったら患者さん自身で痛み止めを投与できる「患者調節鎮痛」(PCA: patient controlled analgesia)という方法を、単独または他の麻酔方法との併用で使うこともあります。レミフェンタニルは無痛分娩において、おもにその患者調節鎮痛の薬として用いられてきました。

患者調節鎮痛は静脈のルートでも行えるので、投与経路の確保が簡単で、何らかの理由で背中に針を刺せない妊婦さんでも無痛分娩できるのが良い点です。ただし、血流を通じて全身に薬剤が巡るため、呼吸に対する副作用が出やすくなったり、胎盤を通過して赤ちゃんに影響が及んだりするリスクもあります。

レミフェンタニルの副作用には呼吸抑制・停止や、筋硬直、けいれん、血圧低下、徐脈(脈が遅くなる)、心停止などがあり、赤ちゃんにも徐脈や呼吸抑制が出ることが知られています。このため、「帝王切開時の麻酔として使用する場合は、赤ちゃんの蘇生が可能な環境で使用すべき」とされています。これは、無痛分娩でレミフェンタニルを使用してきた医療機関も同様であってほしいところです。

参考:
産科麻酔(上山博史)
IV-PCAと硬膜外PCA(PCEA)の選択と適応─IV-PCAの適応─(井上莊一郎、平幸輝、 瀬尾憲正)

レミフェンタニルで重い副作用が生じた症例とは?

麻酔科学会と製薬会社が注意喚起を重ねる原因となった重い副作用の症例は、どんなものだったのでしょうか。
具体的にこれと示されたケースは見つかりませんが、ある麻酔科医の先生が公開している講演用資料と思われるスライドに、合致する内容の事例紹介がみられます。

簡単に紹介しますと、産婦さんは計画無痛分娩のため、陣痛促進剤に続きレミフェンタニルの投与を受けましたが、分娩が進まなかったそうです。そのため両薬剤を中止しましたが、レミフェンタニルを中止して数分後、急に呼吸・心拍が止まってしまいました。蘇生措置によって産婦さんの心拍は再開したものの、赤ちゃんの心拍が回復せず、緊急帝王切開での出産となりました。
その後数日で母子ともに退院されたとありますが、詳しい状況は分かりません。後遺症などなく、元気で暮らされていることを願います。

「安全第一」を基本に最新情報のチェックを

妊娠から出産に至るまでの、身体の変化と負担の大きさは途方もないもの。そのクライマックスである出産時、痛みを緩和する手段を選べるのなら、それを選ばない手はないでしょう。

ただ、痛みを取る以上に母子の安全は大切です。
無痛分娩を希望する方は、そのときそのときの最新情報に注目するとともに、どこの施設でどんな方法で無痛分娩を行っているか、できるだけ詳しく調べてみてくださいね。

この記事を書いた人(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。

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