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「加熱式タバコだから大丈夫」ではありません! 妊婦さんの受動喫煙に要注意

2025.07.29

富永愛法律事務所 医師・弁護士 富永 愛 です。
司法試験に合格し、弁護士事務所での経験を積んだ後、国立大医学部を卒業し医師免許を取得
外科医としての勤務を経て、医療過誤専門の法律事務所を立ち上げました。
実際に産婦人科の医療現場を経験した医師として、法律と医学の両方の視点から産科を中心とした医療問題について発信します。
出産のトラブルでお困りの方は、是非一度お問い合わせください。


「タバコは良くない」、これはすでに常識になっている知識。妊婦さんも、自分自身の喫煙をやめる方はもちろん、受動喫煙をしっかり警戒する方が多いようです。しかし、では最近増えている加熱式タバコについてはどうなのでしょうか? 加熱式タバコの受動喫煙について、情報をまとめました。

「喫煙はダメ!」、でも加熱式タバコは?

好きな人には根強く愛されているタバコですが、それが健康被害につながることはよく知られています。妊婦さんも、「喫煙や受動喫煙は早産や赤ちゃんの酸欠につながる」、「常位胎盤早期剥離のリスクが上がる」、「赤ちゃんが生まれてからも乳幼児突然死症候群になりやすくなる」……などなど飽きるくらい聞かされていることでしょう。タバコをやめたり控えたり、誰かの煙を避けたりしながら、「はいはい、もうわかっているってば」と呟いている方も多いかもしれません。

ただ、少し注意喚起したいのが、昨今広まりつつある「加熱式タバコ」と、妊婦さんをはじめとする吸わない人たちの距離感です。

加熱式タバコは、タバコ葉の加工品を熱してエアロゾルを吸うスタイルのタバコです。火を使わないため灰も煙も出ず、匂いも紙巻きタバコより少ない傾向があります。このため、吸う人も吸わない人もあまり危機感がないようで、インターネット上では妊婦さんの前で気軽に吸う方のエピソードも見つかりました。

しかし最近になって、加熱式タバコにも、紙巻きタバコとさほど変わらないくらいの健康被害や受動喫煙のリスクがあるかもしれないと、指摘されるようになってきています。

加熱式タバコとリスク

加熱式タバコと従来の紙巻きタバコには、どのような違いがあるのでしょうか。
あらためてまとめると、次のようになります。

従来の紙巻きタバコには、喫煙する本人が吸いこむ「主流煙」と、火がついたタバコの先端から出る「副流煙」があり、吐き出された息も煙です。これらの煙の匂いは強く、遠くからでも「あ、吸っている人がいる」とわかるほど主張があります。
それに対して、加熱式タバコのエアロゾルは目に見えず、匂いも少なく、従来のタバコよりずっと存在感は控えめです。

後者の加熱式タバコが、タバコを好まない人に対して迷惑になりにくいのは確かです。煙が充満することがなければ煙たさは感じませんし、匂いがなければあまり気にもなりません。
周囲に発散されるものが感じられないのだから、つまり有害物質も出ていないのだろうと、誰しも考えたくなります。
ですが、それが誤りなのは、次のような研究の結果によって示されています。

加熱式タバコの受動喫煙について調べた研究(※1)

喫煙者と非喫煙者に協力してもらい、紙巻きタバコ、加熱式タバコ、それらの併用喫煙の3パターンについて、尿中に排出されたニコチンと発がん物質の量を調べた研究があります。
それによると、喫煙者から検出されたニコチンの量は紙巻きタバコでも加熱式タバコでも差がありませんでした。また、受動喫煙した人の尿中に排出されたニコチンの量も、紙巻きタバコでも加熱式タバコでも差がありませんでした。タバコに含まれる発がん性物質・NNALの代謝物に関しては、加熱式タバコによる受動喫煙のほうが、紙巻きタバコの場合より多く検出されました。
この結果を見ると、加熱式タバコの健康への影響は紙巻きタバコと差がなく、そして受動喫煙は紙巻きタバコと同じかそれ以上に起こりうると考えられます。煙が出なくても、喫煙して吐き出された呼気にはタバコ由来の物質が含まれると考えれば、それも当然かもしれません。

※1 稲葉洋平ほか:受動喫煙者の尿中ニコチン代謝物の高感度分析の検討と日本人喫煙者及び受動喫煙者のニコチン代謝物量とたばこ特異的ニトロソアミン代謝物量の分析

加熱式タバコのエアロゾルに含まれる物質についての複数の研究

紙巻きタバコの煙、加熱式タバコの蒸気、それぞれに含まれる化学物質を分析した研究によると、加熱式タバコから生成された揮発性有機化合物(VOC)の種類は、紙巻きタバコと同じくらい多種類に上りました。一つひとつの量は紙巻きタバコより少量だったものの、プロピレングリコール、グリセロール、アセトールは多量となりました(※2)。
プロピレングリコールとグリセロールは医薬品、化粧品、食品に使われることもある物質ですが、加熱すると発がん物質のホルムアルデヒドが生じるという研究もあります(※3)。また、加熱式タバコの危険性について触れた日本禁煙学会の提言では、吸い込まれたグリセロールが肺の内部をコーティングする形になり、特殊な肺炎が引き起こされた例があることを紹介し、注意喚起しています。食べたり皮膚につけたりした場合には無害な物質でも、吸うのは別問題ということのようです。

※2 Lucia Cancelada, et al., “Heated Tobacco Products: Volatile Emissions and Their Predicted Impact on Indoor Air Quality.” Environmental Science & Technology, Vol.53, 7866-7876, 2019

※3 R Paul Jensen, et al., “Hidden Formaldehyde in E-Cigarette Aerosols” The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE, Vol.372, No.4, 22, January, 2015

妊婦さんが加熱式タバコを吸うと?

近年の研究から、妊婦さんが加熱式タバコを吸うと、赤ちゃんのアレルギー発症率が上昇することが明らかになりました。
2021年、0~2歳のお子さんを持つお母さん(5,688組)を対象にお子さんのアレルギー調査を行い、その結果と喫煙状況の関係を検証したところ、妊娠中に加熱式タバコを吸っていた方のお子さんがアレルギーを発症する率は、喫煙量に比例して上昇した(1日1本の増加につき5%アップ)ということです。また、アレルギーの発症リスクは、妊娠初期に加熱式タバコを吸っていた方と、調査時現在も加熱式タバコを吸っていた方で高率でした(※4)。

※4 Zaitsu M, Kono K, Hosokawa Y et al. Maternal heated tobacco product use during pregnancy and allergy in offspring. 2023 Apr;78(4):1104-1112.

加熱式タバコも「タバコ」。喫煙・受動喫煙に気を付けて

以上のように、加熱式タバコには受動喫煙もありますし、従来のタバコと同じように多種類の化学物質も出ます。もちろん、従来タバコより低減されている物質もありますが、そもそも「有害物質」であるわけで、安全でも健康的でもありません。にもかかわらず、加熱式タバコには「安全」「害が少ない」というイメージがついてしまっているところがあります。

そうしたイメージができてしまっているのは、従来のタバコはすでに有害性が明らかなのに対して、加熱式タバコについてはちゃんとした情報が少ないのが理由かもしれません。また、2020年に施行された「望まない受動喫煙」の防止対策を義務化する法律(改正健康増進法)で、屋内は原則喫煙禁止となったなか、経過措置として「加熱式タバコだけなら喫煙しながら飲食してもいい」というエリアの設置が認められたことも、「加熱式タバコは健康被害が少ない」という誤解を浸透させることに関係している可能性があります。

いずれにしても、加熱式タバコは「タバコ」です。なまじ匂いが少ないだけに、気づかずに喫煙可能な場所に身を置いてしまう危険性もありそうですが、妊婦さんはしっかり自分を守る意識を持ち、タバコから距離を取ることをおすすめします。

この記事を書いた人(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。

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