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解決事例

2021.07.19

【近畿】妊娠高血圧症候群に対する血圧管理など必要な対応が行われず分娩中にけいれんを起こして妊婦が低酸素脳症となってしまったことについて2億145万円の裁判上の和解が成立した事例

【医療専門】全国対応。北海道から沖縄まで対応しています。
出産時の医療事故(赤ちゃんや妊婦さんの重い後遺症や死亡など)でお悩みの方はご相談ください。
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医療ミスの事案概要

近畿地方の産婦人科クリニックで、妊婦さんが妊娠高血圧腎症により子癇しかん(けいれん発作)を起こし呼吸停止した際に、酸素投与が適切に行われず、低酸素脳症により寝たきりとなる後遺症が残りました。子癇しかん、低酸素脳症の発症は、クリニックの不適切な対応が原因でした。

クリニック側が話し合い(示談)には応じなかったため、裁判になりましたが、最終的に、2億145万円の支払いを受ける内容で裁判上の和解が成立しました。

妊娠高血圧症候群(PIH)と妊娠高血圧腎症(PE)

妊娠高血圧症候群は、妊娠20週以降に血圧の上昇がみられる病気で、症状によって分類され、なかでも、重症になりやすい妊娠高血圧腎症では血圧上昇と蛋白(たんぱく)尿(にょう)を伴います。放置すると子癇しかん(けいれん発作)HELLPヘルプ 症候群など重篤な合併症を引き起こすことがあり、母子の命に関わります。そのため、血圧管理(降圧薬)とけいれん発作の予防(マグネシウム投与など)が重要といわれています。

事例の経過と問題点

不適切な母体管理

妊婦さんは37週5日で高血圧と蛋白尿がみとめられ、38週1日に妊娠高血圧症候群の管理目的で入院となりました。赤ちゃんの発育は良好で、お腹の外に出ても十分生きていけるまで成長していました。

人工的に陣痛を起こすため、陣痛促進剤(オキシトシン)による分娩誘発が行われましたが、お産の進みは悪く、陣痛の痛みで血圧がさらに上昇。
血圧を下げる降圧薬の適切な投与も帝王切開の準備も行われず、ガイドラインに沿った母体管理がなされませんでした。

けいれん発症後の対応にも不備

帝王切開も行われないまま無理な経腟分娩が継続され、吸引分娩やクリステレル胎児圧出法を実施中に、妊婦さんは子癇しかん発作を起こし呼吸停止から心肺停止に陥りました。

その時、酸素投与に使うバッグ・バルブ・マスクの整備不良で20分以上妊婦さんの脳に酸素が十分に届かず、重度の低酸素脳症により寝たきりとなってしまいました。
赤ちゃんは生まれた後、一時的に危険な状態になりましたが、その後回復し、発達に問題はありませんでした。

相談の経緯と検討内容

出産に立ち会ったご主人から「病院の対応に納得できない」とご相談をいただき、カルテや血圧の記録を精査したところ、以下の義務に違反している(過失がある)と考えられるケースでした。

➀いつでも帝王切開ができるよう準備しておく義務

分娩の経過中、血圧は異常な高値となり、重症妊娠高血圧症候群に加え、高血圧緊急症といわれるの状態になっていました。その時点で緊急帝王切開が実施できるよう、ダブルセットアップ(いつでも帝王切開ができる準備)をしておくべきだったと考えられました。

➁血圧を管理する義務

妊婦さんは、妊娠高血圧腎症であり、子癇しかんなどの重篤な合併症を起こさないために、降圧剤を適切に使用した血圧管理を厳格に行うべきでした。

➂帝王切開を実施する義務

重症妊娠高血圧症候群の場合、唯一の治療法は出産(赤ちゃんと胎盤を出すこと)です。経腟分娩を行うこともできますが、母体の血圧上昇や赤ちゃんに異常がないことが条件として求められており、母子のどちらかに異常がみられる場合は迅速な帝王切開の実施が推奨されています。しかし、今回のケースは経腟分娩にこだわり、帝王切開の準備も全くされていませんでした。

裁判での争点と弁護士の対応

クリニックとの交渉では賠償責任がないとの回答だったため、やむなく提訴しました。

クリニック側は、血圧の異常値は「医療機器のエラー」であるとか、「血圧管理はしていた」などと主張しましたが、原告(患者)側からは、血圧推移を詳細にまとめたグラフを作成して裁判官に説明し、40件以上の医学文献、産婦人科専門医の意見書・協力医の証人尋問などにより医学的な問題点を具体的に立証しました。

勝訴的和解での解決

尋問後に裁判所から、原告側の主張をほぼ全面的に認める和解案を提示され、結果として2億円以上の勝訴的和解に至ることができました。
判決ではなく和解となったのは、裁判所からの和解案が原告の主張を概ね認める内容であったこと、判決を選択することでクリニック側から控訴・上告された場合に長期化する可能性などを考え、依頼者と十分相談の上、裁判所の和解提案を受ける形での解決となりました。

富永弁護士のコメント

妊娠高血圧症候群は、けいれん発作や脳出血など妊婦さんに重篤な合併症を起こすことがある産婦人科では非常に重要な病気です。産婦人科医は妊娠中に、常に妊娠高血圧症候群を念頭に置いて血圧や尿の蛋白成分の量、浮腫などを注視しなければならないといわれています。

そのため、妊婦健診では毎回、血圧や尿検査が行われるのです。
このケースでは、血圧モニターを付けて異常な高血圧がわかっていたのに管理を助産師に任せて、医師が適切な対応をしていませんでした。

分娩中に妊娠高血圧症候群が重症化してけいれん発作となってしまい、医師達のけいれん発作への対応にも問題がありました。産婦人科クリニックには、このようなけいれんが起こったときのために、酸素投与のための換気用マスク(バッグ・バルブ・マスクなど)を常に点検して適切に使える状態にしておく必要があります。しかし、このクリニックでは、換気用マスクも点検されておらず不具合のあるものだったため器具による人工呼吸をしようとしたのに、妊婦さんの体に酸素が送り込めない状況に陥ってしまいました。
詳細にカルテを検討して、これらの医学的な問題を一つ一つ裁判所に理解してもらえるよう説明していったことで、勝訴的和解に至れたケースだと考えます。

高めの血圧や尿のタンパクは、妊婦さんの体からのSOSサインです。妊婦さんは心配なことがあれば、我慢せずに産婦人科医に相談してほしいと思います。

この記事を書いた人(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。

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