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解決事例

2025.10.27

帝王切開により娩出された胎児が死亡したことについて、早期に帝王切開を実施すべき義務等に違反したとして、3200万円の損害賠償を認めた事例(東京地裁 平成14年12月18日判決)

【事例の概要】

妊婦さんは、自宅で大量の性器出血やこぶし大の血の塊が出ため、被告病院に入院しました。

医師は、前置胎盤を疑いエコー検査を実施しましたが、胎盤の位置には問題はなく前置胎盤は認められませんでした。

この時、妊婦さんは腹痛も訴えていましたが、医師は常位胎盤早期剝離を疑うことなく、鑑別のための検査も実施しませんでした。

医師は、出血の原因は子宮頚管の断裂(子宮の入り口が切れているだけ)等であると考え、問題ないと判断し陣痛室を退出しました。

陣痛室では分娩監視装置が妊婦さんのお腹に装着され、赤ちゃんの心拍には軽度の頻脈(心拍数が通常よりも多いこと)が見られていました。

ほどなくして、赤ちゃんには大きな徐脈がみられ、分娩監視装置の装着から一度も一過性頻脈(赤ちゃんが元気なことを示す)は確認できず、助産師は電話で医師を呼びました。

しかし、医師は酸素吸入と体位変換のみを指示し陣痛室に赴くことはありませんでした。

その後も妊婦さんには腹痛や少量の出血が続き、赤ちゃんの一過性徐脈は頻発していました。

一過性徐脈が発生してから1時間以上経って、やっと医師は陣痛室に現れ、赤ちゃんに一過性徐脈が頻発していることや、妊婦さんの出血が続いていることに疑問を持ちながらも、帝王切開等の実施を判断せず、緊急事態の認識はありませんでした。

一連の経過に不安を覚えた妊婦さんの夫が帝王切開を提案し、医師がそれを受け入れる形で帝王切開が決定しました。

1時間後に帝王切開が開始されましたが、娩出された赤ちゃんはすでに亡くなっていました。

【裁判所の判断】

裁判所は、常位胎盤早期剝離の発生が極めて濃厚に疑われる状況において、医師には赤ちゃんに徐脈が発生した時点で直ちに帝王切開を決断し、他院への母体搬送や、自院での緊急帝王切開を実施する義務があったと判断しました。

その義務に違反して適切な処置をとらなかったとして医師の過失を認め、さらに赤ちゃんの死亡との間に相当因果関係が認められるとして、病院と医師に対し3200万円の賠償を命じました。(両親への慰謝料2800万円、葬儀費用100万円、弁護士費用300万円)

【高額の慰謝料が認定された背景】

裁判では、病院が自分たちの責任を隠ぺいするために、虚偽の主張やカルテを改ざんしていたことが明らかになりました。

具体的には、妊婦さんの来院時間を実際よりも遅い時刻に書き換えたり、カルテに全く記載がないのに、本当は常位胎盤早期剝離を疑い検査をしていたなどと主張しました。

帝王切開の実施についても、夫が打診してやっと決定したにもかかわらず、病院側から児の安全を考えて提案し、夫がそれに同意したかのような記載にしていました。

さらに信じられないことに、病院は赤ちゃんはお腹の中で亡くなっていたにもかかわらず、生きて産まれた直後に死亡したと嘘の説明をご家族に行い、出生証明書を作成し、その後死亡したようにして死亡診断書を作成していました。

判決文のいたるところに、病院が責任逃れのために行った救いがたい行為の数々が記されていました。

注目すべきは、こうした医師としての非道徳的な行為が明らかにされ「胎児の死亡」について両親に2800万円の他の例よりも相当高額な慰謝料が認められたことでした。

胎児死亡に関する損害賠償の考え方は実際の解決事例で解説していますので併せてお読みください。

【弁護士(富永愛)のコメント】

この裁判を担当された谷弁護士と、このケースについてお話する機会がありました。

このクリニックは、この事件以前にも帝王切開が遅れる医療ミスを起こしていることや、倫理・道徳に反するこの医師は、両親にひどい発言をしたり、嘘をついたりしただけではなく、勤務していた助産師にも圧力をかけるなど信じられないほどひどいケースだったそうです。

また、裁判では病院側に杏林大学教授の鈴木正彦医師が協力をしています。

しかし、「分娩管理に大きな誤りはなかった」などと結論だけを書いた意見書で、幸いにも裁判所がその意見に惑わされることなく正しい判断をしてくれたということでした。

この裁判例は平成9年(1997年)の事故で平成14年(2002年)の判決ですので、20年以上前のものです。

しかし、今でも大学教授などが、ことさらに病院側を擁護するような意見を書いてくることはまだまだ多いです。

一方で、医療安全教育や倫理的教育が行われるようになった20年で、正しい意見を示してくださるドクターは増えてきている印象もあります。

そのひとつの理由として、情報が公開されやすくなったことが挙げられると思います。

今までは、偉い先生が不適切な発言をしても、その情報が公になることはなく、平気で嘘がつけた事情がありました。

法廷で嘘をつけば偽証罪になるはずですが、医師の嘘が偽証罪として立件されることはほとんどありません。

まだまだ日本は医師が嘘をついても罪に問われない国です。嘘がつけないようにするためにも、私達のような患者側に立つ医療専門の弁護士がもっと必要だと思っています。

この記事を書いた人(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。

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