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【連載】ファーストクライ第三話を見て

2026.07.23

【医療専門】富永愛法律事務所 医師・弁護士 富永 愛 です。
出産のトラブル(赤ちゃんや妊婦さんの重篤な後遺症や死亡など)は当事務所にご相談ください。
実際に産婦人科の医療現場を経験した医師として、「これって本当に正しかったの?」「納得できないけど、どうしたらいいのか分からない」——そんな不安を抱えている方に、医学と法律の両方の視点から、安心できる一歩を踏み出していただけるようお手伝いします。


ファーストクライ 第三話 「不器用すぎる正義」

第三話のテーマは「痛み」と、色々な重荷を抱えて生きている人間が、他人を救うことで自分が救われていくストーリー。
抑えた感じの在宅医、真鍋先生が一番気になりました。

藤堂先生が在宅でカッコよく疼痛管理をする場面がありましたが、実際の在宅医療を担っておられる先生方は、痛みを緩和する様々なツールとしてシール状になったパッチなどもうまく使って疼痛管理ができるはず。そのあたりは、在宅のプロ、真鍋先生にカッコよく使いこなしてほしかったなーと思います。のたうち回るシーンがないとその痛みが視聴者に伝わらず、ドラマにならなかったのでしょうけれど・・・次に起こることを予想して対応しておくのが本物です。

産後うつは、入院中よりも、自宅に帰って毎日授乳して寝られない生活の中で起こってくる得体のしれないイライラと落ち込み・・・人柄が変わってしまう妻を見守る夫の視点が欲しかったです。

ドラマでは、答えがあっさり分かったシーハン症候群

「ホルモンが関わる内分泌系の疾患」は何か月も、何年も診断がつかないまま医療機関を転々とする、「内分泌あるある」の一つです。
本来、なかなか診断にたどり着けない疾患をドラマで取り上げてもらったことは意義があると思いました。

シーハン症候群は分娩時の大量出血が起こったことで、脳の下垂体という部分に血液が十分流れず壊死してしまい、下垂体から分泌されるホルモンが不足する状態です。
下垂体は、全身のバランスを整える微量のホルモンを出している大切な部分です。下垂体は、ごく小さな1cmほどの臓器ですが、前の部分にある前葉、後ろの部分にある後葉の二つの部分に分かれていて、前葉と後葉は、全く違う機能のホルモンを出していますが、産後の大量出血では特に下垂体「前葉」の壊死が生じ、前葉から出ているステロイド・ホルモン(副腎皮質刺激ホルモンACTH)、成長ホルモン(GH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、性腺刺激ホルモン(LH/FSH)が影響を受けます。

全身倦怠感として何となくしんどい、疲れやすい、起き上がれない程の辛い状況になることもありますが、特徴的な症状が乏しいため気付かれにくいこともあります。性腺刺激ホルモンは、月経周期や、乳汁分泌に関わっているので、産後月経が再開しないとか、乳汁が出ないことでやっと気づかれる、ということも多い病態です。ホルモンが足りなくなる病気なので、ホルモンを補充することで治療することはできますが、ホルモンのバランスを調整するために長期の治療期間を要することもあります。
出産後の大量出血だけではなく、その他の原因でも起こる「下垂体前葉機能低下症」は、1万7千人の患者さんが診断がついていますが、診断がつかないまま気づいていない患者さんも多いといわれています。

ソーシャルワーカーでもある、名探偵コンシェルジュの成宮さんにはシーハン症候群は「下垂体前葉機能低下症」の一つとして難病指定されていることや、難病指定による色々な支援制度があるところまで伝えててもらえたら、完璧でした。

シーハン症候群になった、これは医療ミスに違いない!?

私のところには「シーハン症候群になった、これは医療ミスに違いない!?」という相談もあります。
患者さんやご家族からすれば、シーハン症候群になった結果の責任は、大量出血になったことにあるはずだから、医者が大量出血を止めてくれていれば・・・ということです。
ただ産婦人科の医療現場も知っているので、出産時の出血が大量になる原因は必ずしもドクターが原因の場合だけではない、ということも知っています。
出血を止める方法も、他の臓器のように、出血した血管1本を止める、というわけにはいかないのが産婦人科の大量出血です。だらだら出る、サラサラの出血をどうにかして止めたいと思っていても実際には、血液の成分を補充しなければ止まらないということもありうるのです。
子宮の内側に張り付いていた胎盤が剥がれると、本来、若くて健康な子宮は、10か月かけて伸び切った筋肉が、すさまじい勢いで元の大きさに縮もうとします。縮む力によって、子宮の内側にむき出しだった血管が、子宮もろとも縮んでくれることで断面も縮み止血する仕組みです。しかし、子宮の収縮がうまくいかないときには、むき出しのままの子宮の断面から出血が続くのです。

若い子宮で問題のない妊婦さんなら子宮もすぐ縮みますが、福島の事故のように胎盤が一部癒着していたり、子宮筋腫があったり、羊水が血液中に入ってアレルギーを起こす(羊水塞栓症)が起こったり、妊婦さんの年齢が高いだけでも(筋肉がもう若くないので・・・)、子宮が早く、うまく縮んでくれずに大量出血になることがあります。1Lぐらいの出血は、体も予想して、妊婦さんは血液の量が増えているのですが、それ以上の出血になってくると、出血と止血のバランスが崩れ始めて、サラサラ、シャバシャバの出血になり、止まらなくなります。DIC(播種性血管内凝固症候群)という状態に陥っていくのです。必要な血液成分の輸血が遅れると、妊婦さんが死ぬこともあります。
大量に出血したとき、ほとんどの一般的な産科クリニックには、輸血に対応するための輸血のストックはしていません。危ないと思いますが・・・

産婦人科が一人や数人で切り盛りしているようなクリニックは、WHOの世界水準でいえば帝王切開をすべきではない施設だと考えられていますが、日本でそんなことをいうと、「お産が出来なくなる」という住民の反対の声が上がり、市長や村長たち政治家も住民の声には逆らえないため、産婦人科の集約化はなかなか進みません。そんな、タブーといわれている切り口も、ドラマで切り込んでもらえたら言うことなしでした。

話がそれましたが、シーハン症候群の法律相談について。
患者さんやご家族からすれば、大量出血が原因でシーハン症候群になったのだから、医療ミスだという考え方ももちろん可能です。
しかし、一方で、裁判は日本の裁判官が日本の医療の現状をもとに判断する仕組みになっています。日本の産婦人科の現状からすると、大量出血の放置時間が何時間もあったとか、救急搬送するタイミングが遅かったとか、よっぽどの遅れがないと、数十分で搬送したけれどシーハン症候群になってしまった、という多くのケースは、損害賠償が認められにくいのではないか(裁判官が過失だと考えてくれない)と感じています。

藤堂先生の過去と喪失

その他の話題としては・・・側弯症は無痛分娩の針を刺す腰椎ではなく、もっと上の胸椎の問題ではないだろうか?とか、無痛分娩ってあんなに大げさにやるもんではないかも?!とか、色々、感想はありますが、何と言っても今回の一番の見どころは、藤堂先生の正体と過去。

話の前半、藤堂先生が、スマホの待ち受け画面を自分と子供の写真にしているのを見た瞬間に「あ、亡くしてしまったんだろうな」と思ってしまったのは、私自身、同じような待ち受けにしていたから。仕事のしすぎで子供を亡くしたことも・・・
今、子供を学校や保育園、施設や病院等、他の人に預けながら全力で働いている人達、皆へのエールだと感じました。

生きている元気な子供の写真は、幸せな時間を眺めていたいという目的で、子供の姿を待ち受けにする。
「子どもだけ」の写真を見ていて癒される・・・そのパターン。それが、子供がこの世界に、もういなくなってしまうと・・・亡くなった人の写真だけを待ち受けにすると遺影のようになってしまう・・・
「亡くなった人と生きている命が一緒に映っている写真」のほうが、この世界と繋がっている感じがするのですよね。大人が自分の写真を待ち受けにするのって、ナルシスト感が強くて気恥ずかしい・・・それでも生きている自分と、亡くなった人が一緒に映った世界を見たくなる。
今、この空間にまだ亡くなった人がいるような感覚を・・・という「離人感」を乗り越えた後の、心の表れなのかもしれません。
大切な人が亡くなると、世の中と自分が全く別の世界にいるような、自分だけが取り残されたような「離人感」が出てきますが、それを乗り越えた先に、「生きている命と一緒に映った写真」がある気がします。
といっても、私の待ち受けは自分と子供の写真ではなく元気に走り回ってくれているぶち猫と子供の写真で、若い自分の写真が「過去」そのものを表しているような気がして・・・

子供を亡くすこと以上に辛いことは、そんなに多くはないと思っていましたが、ドラマを見てハッとしました。
「身の置き所のないほどの痛み」や「孤独の中の絶望感」は、死の苦しみを上回っているものかもしれません。
麻薬使用がまだ躊躇されるような日本では、まだまだ医療に出来ることがたくさんあるのかもしれません。(フェンタニルが乱用されるアメリカとは対照的です)そのあたりも地味ながら素敵な真鍋先生の仕事ぶりがもっと見たかったです。

話の雰囲気からして、これから医療訴訟の話題も出てきそうな予感がしますが、このドラマの主人公は産婦人科医の三井先生ですから、きっと私のような患者側弁護士は悪役なのだろうなぁ・・・
また、「医療現場が大変であることも理解せずに訴えてくる非常識キャラ」設定かもしれないと思うと、少し哀しい。
藤堂先生と同じように、医療訴訟に関わる患者側弁護士にも、自分の命や子供を失う程、医療訴訟に突っ込みすぎるプロの先輩方がたくさんおられたのに・・・
そんなドラマも作っていただけたら嬉しいですね。
医療訴訟に関しては、医療のこと以上に熱い突っ込みを入れたくなってしまうかもしれません・・・第四話にも期待しています。

≪第二話

第四話≫

この記事を書いた人(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。

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