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出産の死亡率とは。妊産婦死亡の現状と悲しいお産をなくすために

2024.01.19

富永愛法律事務所の弁護士 富永です。

医療が進んだ日本でも、毎年約20~30人の妊産婦が出産時に亡くなっています。
日本での妊産婦死亡率やその原因、そして妊産婦が亡くなってしまうような出産時の事故に遭ってしまったときに気を付けたいことを解説します。

出産による妊産婦死亡の日本と世界の現状

まず、「妊産婦死亡」とは、妊娠中または妊娠終了後(42日未満)の女性が、妊娠と関連した原因で命を落としてしまうことを指します。

そして、「妊産婦死亡率」とは、出産数10万例に対する1年間の妊産婦死亡数の割合です。

年間妊産婦死亡数 ÷ 年間出産数(出生数+死産数) × 100,000

では、日本では妊産婦死亡率はどのくらいなのでしょうか。
世界の現状もあわせてお伝えします。

日本の妊産婦死亡率の推移

日本の妊産婦死亡率は年々減少しています。
その背景には医療機関での出産が大半となり、安全に分娩管理ができるようになったことがあります。
2020年には死亡率は2.7となりました。

妊産婦死亡数および率

出典:人口統計資料集(2022)

世界の妊産婦死亡率

世界保健機関(WHO)によると、世界の妊産婦死亡率は223(妊産婦10万人あたり223人)です。
日本の2.7と比較すると、83倍となります。

WHO加盟国のうち、198の国と地域を対象とした妊産婦死亡率のランキング(順位が高いほど死亡率が高い)では、日本は172位と非常に低く、安全に出産ができる国といえます。

1位は南スーダン、2位はチャド、3位はナイジェリアと、上位にはアフリカの国々が多く、全妊産婦死亡の約7割をアフリカ地域が占めるとされています。紛争地域についても死亡率が顕著に高く、質の高い医療を受けることができないために、助かるはずの命が失われています。

出産で妊産婦が死亡する原因

出産で妊産婦が死亡する原因として多いのが「産科危機的出血」「脳出血」「心肺虚脱型羊水塞栓」の3つです。

産科危機的出血

産科危機的出血とは、産科の疾患によって大量出血が起こった状態をいいます。弛緩出血や子宮型羊水塞栓症、常位胎盤早期剝離などが原因として挙げられます。

脳出血

くも膜下出血を含む頭蓋内出血のことをいい、妊娠高血圧症候群HELLP症候群子癇、動静脈奇形などが原因で起こるといわれています。

心肺虚脱型羊水塞栓

初期症状として突然の胸痛、呼吸不全、意識消失や原因不明の胎児機能不全などを呈し、心停止に至るまでの時間が非常に短いのが特徴です。

出産による妊産婦死亡を減らすために

妊婦さんが死亡したケースは、日本産婦人科医会、妊産婦死亡症例検討評価委員会が2022年9月にまとめた報告書「母体安全への提言2021」(以下、「提言」と言います)に詳細が報告されています。
幸せな瞬間であるはずの出産で、妊婦さんが死亡してしまう事故は、2010年~2021年までの11年間に517例。その解析の結果を今後の産婦人科医療に役立てる目的で作成されています。

提言では、なぜ死亡したのかだけでなく、今後の医療に活用するための方法を毎回提示しています。
今回の報告書には、5つの提言が出されました。

提言1

産科危機的出血の初期対応時、血中フィブリノゲン値を迅速に確認し、速やかに凝固因子の補充を行う

出産時に、大量出血が起こってしまった状況、産科危機的出血(産科ショック)のときには、血液検査で血中フィブリノゲンという値を早期に確認して、出血多量によって、血を固めたり、血栓を溶かしたりする止血の機能が崩れてしまう状態、DIC(播種性血管内凝固症候群)に陥って亡くなることがないように、具体的な方法を示しています。

提言2

子宮腺筋症核出術後妊娠では、癒着胎盤・子宮破裂に注意して管理する

子宮腺筋症や子宮筋腫で、核出(筋腫を切除)した経験のある妊婦さんは、胎盤が癒着したり、子宮破裂を引き起こすリスクが高いことを考えて、お腹が痛い、お腹が張るという訴えに特に耳を傾けるように促しています。

提言3

全身麻酔の気道確保困難による妊婦死亡を削減する

緊急帝王切開のときに麻酔をしようとして、気道が確保できずに亡くなる事故が増えているということを重く受け止めて、麻酔をする可能性がある妊婦さんには、予め麻酔リスクの評価しておくことや、腰椎麻酔ができるかどうか、評価しておくことの重要性を示しています。なぜ、出産と麻酔?と思われるかもしれませんが、帝王切開を行う際には、腰から麻酔薬を入れて腰から下の麻酔(腰椎麻酔)を行いますし、超緊急手術では、全身麻酔で帝王切開することもあります。さらに、近年増加している、無痛分娩も麻酔薬を使う処置なので、麻酔が効きすぎてしまって呼吸や心臓まで止まってしまうという事故が実際に起こっているのです。

提言4

各地域で母体急変の講習会を開催し、施設内と共に、施設間の連携システムを構築する

診療所と病院、助産所と病院などのネットワークがきちんと作られていなことで妊婦さんが死亡することをなくそう、とも述べています。妊婦さんが亡くなってしまう事故は、ご家族にとっては天国から地獄に突き落とされる状況です。冷静に対応するような余裕もなく、赤ちゃんも亡くなってしまうこともあります。
当方が、今担当している事故も、診療所での対応が遅れ、総合病院に搬送された時期が遅かったために、お母さんも赤ちゃんも亡くなってしまった、という悲惨な事故があります。残されたご主人は、一時は、自分だけが生き残ってしまった、と自責の念から死にたいと思い詰めるほど苦しんでおられました。診療所との交渉や裁判の過程を通じて、少しずつ現実を受け入れていく長い作業を、一緒に戦っています。

提言5

妊産婦死亡が起こった場合を想定し、遺族に対し、解剖について適切な説明ができるよう、事前に自施設で準備する

妊産婦死亡が起こったときに、遺族に対して「解剖」を適切に勧めなさい、というものです。悲しみのどん底にある家族にとって、体を切り刻まれるイメージの解剖は、踏み切れないことが多く、半数以上の家族が解剖を望まなかったという結果が示されています。
しかし、交渉や裁判になると、裁判所から「死因を証明しなさい」といわれることになり、死因がわからなければ、医療機関の責任は問えないといわれることになり、さらに法律の世界でも見放されたような気持ちになってしまうのです。

司法解剖は遺族に結果が公表されません

科学的に死因を究明するためには解剖が必要です。
しかし、注意が必要なのは、警察が関わって行われる「司法解剖」です。

警察は、医師や助産師に業務上過失致死罪が問えるかどうかの証拠として解剖を使いますが、残された遺族には、その司法解剖の結果が公開されないのです。日本産婦人科医会、妊産婦死亡症例検討評価委員会にも、司法解剖の結果は公表されません。つまり、司法解剖になってしまうと、科学的な検証もできず、妊婦さんの死をこれからの医療に役立てることもできないのです。

おかしいと思いませんか。そもそも刑事手続きは、社会正義や社会秩序を守るためにあるものなのに、刑事罰を問えるかどうかの重要な資料「司法解剖の結果」が公表されず、社会のためにならないなんて。

病理医による病理解剖

解剖をしたのに結果を教えてもらえなかった・・・
そのようなことにならないために、解剖の中でも死因を究明するために行われる「病理解剖」を行うことが必要です。大学病院や中堅の総合病院では、病理医という専門家がおられ、病気の原因を解明するために解剖を行い、報告書を作成してくれるのです。提言でも、妊婦さんがなくなったときに、死を無駄にしないためにも解剖を勧める必要が有ること、とくに病理解剖の必要性を、医師などが家族にきちんと説明できるように、備えておきなさいと述べています。

当事務所の関わるケースも、解剖をすることは躊躇されたので、病理解剖も、司法解剖も行われませんでした。日本の医療裁判では、裁判官が「死因」を特定できなければ、医者が原因を作ったかどうかわからない、だから患者を勝たせる判決が書けない、という限界を抱えています。
診療所や病院が何もしなかったから亡くなってしまったのに、亡くなった原因を作った医療機関側には何の責任もなく、患者さんや残された遺族が「死因」を証明しなければいけない、それが今の日本の医療訴訟の現実です。

解剖が行われていない場合には、大きな証拠がない状況での戦いになります。死亡診断書やカルテの細かな記載、亡くなるまでの経緯や検査結果、画像結果などを全て矛盾なく並べ、総動員して、こういう経過だから「死因はこれだ」と裁判官を説得してゆくのです。

0にはできない出産の死亡率。より安全なお産を目指して

日本は、世界に比べて妊産婦死亡率が極めて低く、安心してお産に臨める環境と言えますが、それでも亡くなってしまうケースがあります。
特に死亡原因として多いのが「産科危機的出血」「脳出血」「心肺虚脱型羊水塞栓」の3つです。

出産のときに亡くなる妊婦さんを0にすることは、取り上げた3つの原因の他にも色々な病気があるために、難しいかもしれません。しかし、死ななくてもよかったケースをきちんと検証して、今後の医療に活かさなければ、亡くなった方やご家族が辛すぎます。

「母体安全への提言2021」では、妊婦さんの死亡原因の他、悲しいお産をなくすための提言がなされています。
私自身、悲しいお産をなくすために、できることがあるはずだと日々思います。

この記事を書いた人(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。

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