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医療事故では「弁護士の交渉」って何をやるの? 

2026.09.28

【医療専門】富永愛法律事務所 医師・弁護士 富永 愛 です。
出産のトラブル(赤ちゃんや妊婦さんの重篤な後遺症や死亡など)は当事務所にご相談ください。
実際に産婦人科の医療現場を経験した医師として、「これって本当に正しかったの?」「納得できないけど、どうしたらいいのか分からない」——そんな不安を抱えている方に、医学と法律の両方の視点から、安心できる一歩を踏み出していただけるようお手伝いします。


弁護士に依頼するかどうか迷っている方々からお聞きする不安の内容

・お金がかかるんじゃないか?

・交渉ってどんなことをするのか?

・医療ミスの場合に、具体的に何をしてくれるの?

・この弁護士で本当に大丈夫なのか?

・どのくらい時間がかかるのか?

・交渉がうまくいかなかったときは損するんじゃないの?

・病院のドクターや看護師に知られたら嫌がらせを受けないか?

・お金が目的だと思われないのか?

というものが多いです。
お金に関する不安については、当事務所の別コラム を見て下されば安心されると思います。

Q&A〈示談交渉のとき〉着手金なし(完全成功報酬制)のメリット・デメリットは何ですか?

産科医療LABOはなぜ相談・調査費用が無料なのか

ここでは、
・実際の交渉ってどんなことをするのか
・医療事故や医療ミスの場合に具体的に何をするのか
・時間がどのくらいかかるのか
を実際の事例に沿って説明したいと思います。

1. 示談交渉のスタートは「通知書」

病院やクリニックとの交渉を始めるには、文書を相手方の代表者に送ることからスタートします。通常、この文書は「通知書」という名前にしていますが、名前は重要ではなく「ご連絡」とか、「質問書」とか、いろいろなネーミングがあります。弁護士によっても違いますが、当事務所では、「通知書」というタイトルにすることが多いです。

示談交渉を始めるための「通知書」。これを一緒に作っていくところから始めます。相手方(病院やクリニック)に対する損害賠償請求を求める内容を記載した「通知書」を作成する際には、例えば産婦人科の事件であれば、赤ちゃんが障害を負ったことに対し、相手方病院にミス(過失)があり、ミスによって低酸素性虚血性脳症に陥ったこと(因果関係)があることを証拠とともに記載します。

この文書で、相手方に賠償に応じさせる必要があるので、相手方が納得する内容や証拠が揃っていることが重要になります。弁護士の実力の差は、この通知書を見ればわかります。

過失、因果関係と、後遺症の証明、というのは、漠然とした書き方では足りません。カルテなどの客観的証拠をもとに相手方に示す必要があります。医療事故の当日のカルテ記載、CTGモニター記録、その後の時間経過などが客観的書庫としてカルテにどこまで記載されているのかが不明であると、具体的な記載が出来ません。そのため、カルテなどの資料を残らず集めることが必要になってきます。

当日の状況は、両親の経験もあるし動画もある、録音もとっているのに、なぜカルテ開示が必要なの?と思われる方もおられると思います。しかし、相手方も、自分たちの病院やクリニックに勤務している医師や助産師が自ら書いた記載内容は反論がしにくいはずです。だからこそ、相手方の医療機関が何を書いていて、何を書いていないのか、記載がないとするとその理由は何か?というところまでカルテを見ながら検討する必要があります。さらに搬送された先のカルテについても、入手する必要がありますが、これは、別の医療機関の医師や助産師が、どのように評価しているのか、第三者の意見として重要になるからです。これらは全部、裁判になった時の重要な証拠になりますし、示談交渉の段階でも裁判で勝てるかどうかを検討してこそ、相手方を説得し話し合いによる解決(示談)が出来ることになります。

通知書を作成する段階では、まだ裁判をして勝算があるかどうかがわからない状況です。法律相談の時点では、まだ、相手方にミスがあるのではないか、ミスと後遺症の間に因果関係があるのではないかと考えているだけで、おそらくこんなカルテがあるだろう、CTG波形があれば所見があるはず、と考えている状況になります。

カルテ開示で資料を全て入手し、カルテとCTG波形を見れば、当事務所でのこれまでの経験上、戦えるか、戦うべきかどうか(究極的に裁判になった時に勝てる見込みがあるかどうか)の予想をある程度、立てることが出来ます。
カルテに有利な証拠が全くないときには、ひどいミスがあったとしても、立証不十分で敗訴見込みになる可能性もあります。この点は、ご家族としては許しがたいことだと思いますが、日本の法律では、損害賠償責任の請求をする場合の立証責任は、原告側(権利を請求する側、原告)が負うことになっていますので、こちらが「十中八九」(イメージとしては8割9割ぐらい以上)の確率でミスがある、因果関係もある、ということを証明するための証拠が求められます。裁判官から「証拠を出しなさい」と言われるというわけです。

例えば、示談による話し合いがまとまらずに決裂し、裁判になった場合、多くの裁判官は、医学的知識は「ほぼ0」なので、医学的な用語を一からすべてわかりやすく説明して、その時も客観的に医学文献に書いてある部分(医学的な客観的証拠)を示しながら、説得していく必要があります。当事務所では、示談交渉においても、この裁判になった時のことを常に意識して考えています。示談がうまくいくかどうかは、相手方に「裁判に負けるかもしれないから、示談で解決しておいた方がよさそうだ」と考えさせなければなりません。そこまで考えさせて初めて賠償に応じようと考えるのです。

相手方病院からすれば、これらのことを踏まえて示談解決をすべきかどうかを検討してきます。とすると、示談交渉が成功する場合というのは、裁判をすれば勝てる可能性が高いケースで、かつ相手方が示談を望むケース、ということになります。

カルテを検討し、十分な客観的証拠があり、勝訴する(相手方とすれば、敗訴する)可能性が高い場合には、相手方病院の加入している保険会社(開業医であればほとんどは日本医師会の運営する医師賠償保険)の方も、検討委員会で産婦人科の医師も交えて検討し、敗訴するよりも示談する方がよい(安く済む)と判断するため、話し合いに応じてきます。

2. 「通知書」ってどのぐらいの枚数のもの?

「通知書」は当事務所では、産婦人科の出産時の事故の場合には、A4サイズで5頁以上10頁程度のものを作成しています。単純なミスだと思ったケースでも、根拠となる産婦人科診療ガイドラインや原因分析報告書などの根拠を引用して、相手方を説得できるだけの文章を書くと、短くても7-8頁になってしまうからです。

弁護士の実力の差は、この「通知書」の内容として、しっかりした客観的証拠を示しているか、裁判になった場合でもこの証拠で裁判官を説得できそうか、というところに現れると考えています。

他の弁護士に依頼をされていた方が、弁護士を変えたい、自分の弁護士が大丈夫か知りたい、と考えて当事務所に相談に来られることがあります。その際にも、弁護士が作成した「通知書」のような文書を見れば、その実力はわかります。医学的な根拠が書いていない、ご家族や本人の言い分が長く書いてあり、カルテや診断書等を引用していないものでは相手方を説得することはできません。
相手方医療機関の弁護士は、常に医療機関の医師が関わって教えてもらえる環境にいます。そのため医学的な知識を多少持っていますし、医学的な観点をわかっていない患者側弁護士の文書をすぐに見抜きます。「この弁護士は医学的なことをわかっていないし、裁判をしても勝てるだろう」と相手方の弁護士に思われてしまうと、「責任なし、賠償しません」という回答を送ってきます。

3. 「通知書」を送ること≒時効がはじまる?

通知書を作成すると、相手方に送ります。通知書は、法的には「損害賠償請求をしますよ」という意思表示になります。注意が必要なのは、「通知書」を送った段階で、時効のカウントが始まってしまう、ということです。
損害賠償請求権について書いてある法律、民法第166条に二つの原則があります。

一つ目は権利を持っている人(賠償請求をする人)が「権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき」というルールです。医療ミスでは、患者さん本人やご家族が「賠償を支払ってもらう権利がある」ことを知った時からカウントが始まります。
患者さんやご家族が、病院との話合いの際に、賠償して欲しい!とか、お金を払ってほしい!とか、命を返してくれ!という発言をしたとしても、まだ正式な損害賠償権という権利の内容がわかっているわけではありませんし、実際に賠償が出来るかどうかは、カルテなどを十分検討しなければわかりません。そこで、正式に文書で「損害賠償請求権があるから賠償を求める」というような内容の文書を送った時が、「知った時」だという法解釈が出来ます。
弁護士に依頼し、その弁護士が、医療ミスのことや医学的な知識がなくても、「損害賠償請求権がある」とか、「損害賠償を請求する」等と書いた文書を送ると、その時点で、権利があることを知った、と考えられてしまうことになります。

当事務所でも、別の弁護士が、医学的な調査や検討が不十分なまま文書を送ってしまい、相手方から「賠償しません」というお手紙が来てしまった、という相談があります。その弁護士が文書を送ってから5年経ってしまっていると、時効によって賠償金の一部が請求できなくなってしまいます。文書を送ってしまったという方は出来るだけ早くご相談下さい。

もう一つの時効のルールは、「権利を行使することができる時から10年間行使しないとき」というものがあります。
こちらは患者さんや家族が賠償権の存在を知っていたかどうかにかかわらず、客観的に権利を行使できるようになった時点からカウントが始まってしまいます(客観的起算点)。
この民法のルールは、権利の存在に気づかないまま長期間が経過した場合に、無期限に請求が可能となる事態を防ぐための最終的な打ち切り期間としての役割を果たします。

医療ミスの損害賠償請求権は、不法行為による時効として「通知書」等を送っていなければ、最長20年まで時効が成立しないルールもあります。しかし、実際のところ、20年経つとほとんどカルテが残っていなかったり、当時の病院すらなくなってしまっていることもあり実際の賠償請求は難しくなります。

4. 医療ミスでは5年以内に弁護士に相談した方がいい?

賠償できる権利は10年ありますが、実は、医療ミスや医療過誤事件では、重要な資料であるカルテの保管期間は5年ですので、資料を集めようと思ったときに病院からカルテを廃棄したと言われて逃げられてしまうことがあります。
実際には、病院やクリニックは5年以上カルテを保管してくれているところが多いのですが、交渉や裁判をするケースでは、病院との関係性が壊れてしまっていることもあります。そんな場合には、カルテが残っていても「もうカルテの保存期間は過ぎたから保管していない」とか、「カルテ開示には応じない」と言われてしまうことがあります。最終手段として、カルテの差し押さえ手続きである証拠保全を行って、カルテを入手する方法がありますが、確実に入手できる保証はないため、できるだけ早く、相談だけでもしてもらえたらと思います。

5. 通知書を送ってからはどんな流れになる?

通知書を送ると、相手方の病院やクリニックでは、加入している保険会社に相談したり、医師会に相談したりという手続きを行って、賠償をするべきかどうかを検討することになります。
医療機関や医師は、通常何かの保険に加入しています。(医者を辞めていたり、クリニックを閉鎖していたりする場合もあります。そのような場合には、より一層急ぐ必要がありますので、個別に相談に応じます)

産婦人科のクリニックを例にして考えると、一番多いのは、医師会の保険に加入しているパターンです。総合病院は、また別の保険に入っていることがあります。
医師会の保険では、保険会社としての役割を各都道府県の医師会が担うため、医師会の委員会で賠償をすべきケースかどうかを検討するようです。月1回の委員会の会議で決めるようですが、金額が大きくなるほど、都道府県の医師会だけでは判断できず、全国組織の医師会本部の会議を経て、患者さん側であるこちらに連絡が来ることになります。

当事務所での経験では、通知書を送ってから、早くて2-3か月、遅ければ半年以上かけて、「賠償に応じる余地があるかどうか」についての回答をしてきます。「全くミスはない」「賠償には応じない」「過失なし」などの文書が送られてきたときには「0円ですよ」という意味です。

これに対して、さらにもう一度、医学的な内容を記載した2通目の通知書を送ることもありますし、相手方の弁護士と直接やり取りをして「裁判に勝てると思っているのか?こちらは裁判も考えているし、証拠もあるから勝てると思っている」ということを伝えることもあります。

最近は、相手方である病院側の弁護士に、医師としての経験がある方や、医師免許を持っている方(医学部は卒業して国家資格は取ったが医者はやっていない方)が増えてきています。そのため、医学的な内容について、弁護士同士で直接やり取りをすることで「話合いが出来ないか、もう一度検討してみます」と言われることがあります。

当事務所では、代表である富永が、外科医として総合病院で勤務し、研修として産婦人科や内科、小児科、麻酔科などの実際の医療現場で働いた経験があることを生かして、相手方代理人と具体的に医学論争を行うことで話し合いを進められることがあります。医師としての経験は、証拠になる医学論文の検索や、臨床現場と論文の差も理解したうえで、証拠として裁判官を説得できるかどうかの判断にも役立っています。

相手方の弁護士に医学的知識がない場合には、具体的な話をすることは難しいですが、そのような医学的知識の乏しい弁護士に対しては、積極的に裁判をする方がいいこともあります。そのあたりの判断は、実際のケースに応じて、誰が相手方弁護士か、裁判所に医療集中部がある地域か、等と勘案して、もう少し交渉を続けるか裁判にするか、あるいは相手方と話し合いながら調停手続きを活用するか、を検討していくことになります。

6. 今も悩んでいらっしゃるご家族様へ

まだカルテもなく今後どんな生活になっていくのかもわからない不安の中で、このようなお金の話や裁判の話なんか考えられない、と辛さや心苦しさを感じられるご家族はたくさんおられるのです。

医療裁判は簡単ではありませんし、シビアな面もあります。コラムやホームページだけでは、十分お伝えすることは難しいこともあります。

しかし、当事務所のスタッフは、特に産婦人科事故に関しては特化したエキスパート・メディカルパラリーガルとして相当の勉強と経験を重ねています。医療事故の経験が乏しい弁護士の方々よりも、事故の内容や示談、裁判手続きについての知識はある自負はあります。法的に賠償することが難しいケースでも、その理由や考え方について、できる限り丁寧に説明するよう心がけています。
モヤモヤした気持ちや不安を、当事務所の経験によって一つでも取り除けたら、とスタッフ一同思っています。
どうかお気軽にお問合せください。

この記事を書いた人(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。

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