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子宮外妊娠(異所性妊娠)の見落としによる死亡例は過去10年で3件。日本医療安全調査機構の警鐘レポート

2025.07.17

富永愛法律事務所 医師・弁護士 富永 愛 です。
司法試験に合格し、弁護士事務所での経験を積んだ後、国立大医学部を卒業し医師免許を取得
外科医としての勤務を経て、医療過誤専門の法律事務所を立ち上げました。
実際に産婦人科の医療現場を経験した医師として、法律と医学の両方の視点から産科を中心とした医療問題について発信します。
出産のトラブルでお困りの方は、是非一度お問い合わせください。


2025年7月、日本医療安全調査機構が「子宮外妊娠(異所性妊娠)に伴う卵管破裂による死亡例」について、警鐘レポートを出しました。どのようなケースが死亡につながっているのか、そこに示された具体例と注意喚起の内容をご紹介します。

「異所性妊娠に伴う卵管破裂による死亡に対する警鐘レポート」の発表

受精卵が子宮の中ではなく、卵管をはじめとした様々な場所に着床してしまう、子宮外(異所性)妊娠。

症状は強い腹痛で、これは卵管や卵巣など、着床が起こってしまった臓器が破裂・出血することで起こります。併せて不正出血や吐き気、嘔吐、めまいなどが見られることもあります。しかしこれらの症状は、出血を除けば他の急性腹症(突然の腹痛を主な症状とする緊急の病気)でもみられるため、別の病気と間違われる例が少なくありません。見落としから死亡につながってしまった事故も、過去10年間で3件起きているということです。

そうした状況を背景に、2025年7月、日本医療安全評価機構(医療事故調査・支援センター)より「異所性妊娠に伴う卵管破裂による死亡に対する警鐘レポート」が発表されました。

日本医療安全評価機構とは、2014年(平成26年)時の医療法改正時に盛り込まれた「医療事故調査制度」に基づいてスタートした組織です。2015年以来、発生してしまった医療事故についての調査報告を収集・分析し、それを周知して再発防止をはかる活動をしています。警鐘レポートは、同一事例が複数報告される事故を具体的な再発防止策とともにまとめたうえで、注意喚起しているものです。

No.1が出されたのは2024年11月で、内容はページングワイヤー技法に伴う心損傷による死亡について。No.2は注射剤の血管内投与後に発症したアナフィラキシーによる死亡について。今回の異所性妊娠に関するレポートは、それに続くNo.3として出されました。この先も様々な事故事例に基づく注意喚起が、続けて出されていくと思われます。

※こちらのコラムもご覧ください
子宮外妊娠(異所性妊娠)とは?見落としによってもう少しで亡くなっていたケースも

3件の死亡例はどのようなもの?

死亡に至った3件の詳細は「医療事故の再発防止に向けた警鐘レポートNo.3 異所性妊娠に伴う卵管破裂による死亡」に掲載されています。

各例を簡単にまとめると、次のようになります。

事例1
強い腹痛と嘔吐から救急車で受診。「体外受精により妊娠し現在8週、心拍確認済」と自己申告したこともあってか、医師は子宮外妊娠を疑わず感染性胃腸炎として治療しました。しかし翌日に患者さんは心停止、CTで卵管破裂による腹腔内出血が判明。治療したものの数日で亡くなりました。

事例2
患者さんはまず不正出血で婦人科を受診、その後様々な経過を経て、いったん流産の診断になりました。数日後、腹痛が現れ、妊娠反応も陽性になり受診。流産後の経過のひとつと判断されて自宅に戻りましたが、その1週間後に倒れ、卵管破裂による出血で亡くなりました。

事例3
体外受精で胚移植を行った9日後に受診しましたが妊娠反応はなく、次の治療周期を開始。開始2週間後の受診時には特に異常はみられず、患者さんからも症状の報告はなかったものの、受診翌日に腹痛、嘔吐、下痢となり、さらに翌日、卵管破裂による出血のため自宅で亡くなりました。


これらの例を見ると、妊娠している・流産した・体外受精胚を移植したが妊娠していない、という情報が、かえって子宮外妊娠の疑いを遠ざけてしまっている可能性が高いことが見えてきます。

このことから、警鐘レポートNo.3では、医療者向けに、下記のような注意喚起を行っています。

妊活中の方々は常に注意を

死亡例のうち2例の方が体外受精を受けていることから、お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、胚移植を受けた方に子宮外妊娠が起こる率は、一般的な割合より少し高くなっています。中でも、妊娠しにくい原因が卵管にある方は、発症のリスクがより高いといわれています。治療で複数個の胚を戻したときは、子宮内とそれ以外の両方、もしくは子宮外にだけ着床する場合もあるのを一応念頭に置いて、体調に注意していただきたいと思います。

子宮外妊娠が起こる割合は、すべての妊娠のうち1%程度といわれていますので、当然ながら、自然妊娠を目指している方にもリスクはあります。

子宮外妊娠は妊娠検査薬だけでは判断できません。早期に診断し治療すれば亡くなるようなことにはなりません。妊娠反応や体調の変化に気づいた方は、早めに産婦人科を受診するようにしていただきたいと思います。

参考:
日本産婦人科医会 11.生殖補助医療(ART)
Strandell A, Thorburn J, Hamberger L. Risk factors for ectopic pregnancy in assisted reproduction. Fertil Steril 1999;71:282–6.

この記事を書いた人(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。

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